トランプ米大統領は、2018年3月1日、鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課す方針を表明した。世界貿易機関(WTO)協定では、一方的な輸入制限を禁じるが、安全保障が理由であれば例外扱いできる。今回の措置は中国などの不当廉売の影響で国内の供給力が落ち、武器製造や防衛技術の維持が難しくなっているとの安全保障を理由としたもので、発動期間は無期限。国単位での除外は否定していたが、安全保障に基づき国単位で考えるとした。また、「ビジネスを進めるために必要な場合は特定のケースで除外の手続きを取ることになるだろう」とし、特定の製品を対象から外す方針を示唆。米国の鉄鋼メーカーから調達できない高付加価値品などを例外扱いする可能性がある。

トランプ政権は、世界粗鋼生産の約半分を占める中国の過剰生産を問題視してきた。これまで中国品には反ダンピング関税を課しているが、反ダンピング関税は特定の国からの限られた製品に課すため、第三国を迂回した輸入品には効果が限られるとして、幅広い国からの輸入制限を探ってきたという。中国品に課している反ダンピング関税は、米国の輸入に占めるシェアの2%に留まる。

また、米国の鉄鋼輸入はカナダやブラジル、韓国が多い。日本は全体の5%となっている。

トランプ米大統領が強硬策を打ち出す背景には、2018年秋の中間選挙を見据えて保護主義的な政策を打ち出し、雇用創出を支持者にアピールする狙いがある。


欧州連合(EU)

EUは、米国の輸入制限への対抗策を検討。輸入制限がWTOのルールに違反するとして他国との共同提訴や輸入制限で余剰となった鉄鋼の流入が急増するのを防ぐため、緊急輸入制限(セーフガード)などを検討する。EUによる鉄鋼の対米輸出量シェアは14.3%となっている。

また、28億ユーロ(約3600億円)規模の米輸入製品に対する報復措置に動く方針。鉄鋼製品に加え、工芸品、農業品の3分野で25%程度の輸入関税を課すことを検討。対象となる米製品として、ハーレー・ダビッドソンやバーボン・ウイスキー、リーバイスのジーンズなどを例示した。


中国

「米国の最終的な措置が中国の利益を損なえば、我々は他の国々と共に自らの利益を守るために適切な措置をとる」とした。米最大の輸出品である大豆を標的に報復するとの観測もある。中国は海外勢で米国債の最大保有国でもある。

中国の李克強首相は、2018年3月5日、2018年に鉄鋼の生産能力を3000万トン削減すると表明した。削減目標は中国の年間生産能力の約3%にあたる。中国は過去2年間で生産能力を1万1000万トン削減したとしている。

2017年の中国のアルミニウム生産は過去最高水準で、半製品なども含めたアルミ材の輸出は過去最高を更新。対米輸出は2014年比で6割増えた。中国でもアルミの過剰設備問題が浮上。中国の工業情報化省は、2018年2月にアルミニウム業界に対して生産能力過剰リスクを防ぐための対応を求めた。


カナダ

トランプ米大統領は、2018年3月5日、ツイッターで「鉄鋼とアルミへの関税は、新たに公正な北米自由貿易協定(NAFTA)が署名された場合に限り解除する」とした。一方、カナダは、鉄鋼・アルミニウムの輸入制限が発動された場合は、必要に応じて適切な措置をとるとしている。

2017年1月、トランプ米大統領はNAFTAの再交渉を表明。NAFTAの域内では自動車など主要製品をゼロ関税で輸出入できる。関税引上などにつながれば、世界的なサプライチェーンの見直しが避けられない。