iPS細胞関連の動き。2017年は理化学研究所などによる他人のiPS細胞から育てた細胞を加齢黄斑変性患者に移植する臨床研究や大阪大学による心筋シートの患者への移植、慶應義塾大学による脊髄損傷患者への移植などが行われることから、注目される年になりそうだ。

2017年に行われる見通しのiPS細胞関連の主な臨床研究や関連する企業などをまとめた。


iPS細胞 2017年注目の動き

治療 時期 関連企業
心筋シートを重症心不全患者に移植 2017年  
角膜上皮組織の再生医療の臨床研究を申請 2016年度中  
脊髄損傷治療 2017年夏まで サイバーダイン
加齢黄斑変性治療の2例目 2017年 ヘリオス 大日本住友製薬


心筋シート

iPS細胞から作った心筋シートを重症心不全の患者へ移植する治療を2017年にも試みる予定。研究成果は移植治療の効果を高めたり、心筋の機能を高める薬を開発したりするのに応用できる見通し。

大阪大学はiPS細胞に特殊なたんぱく質などを加えて培養し、心筋細胞へ変化させることに成功。直径4センチほどのシートに加工し、心臓の表面に張り付ける。

重症心不全は75%の人が1年以内に死亡するとされている。現在の重症心不全の治療法は、補助人工心臓の植え込みと心臓移植が主。人工心臓は年々性能が上がっているが、何十年も使える耐久性がなく、最終的には心臓移植が必要となるケースも多い。日本では心臓移植が必要な患者は1000人以上いるとされているが、脳死での臓器提供は年間20~30例にとどまっており、全く足りない状況になっている。


角膜上皮組織

大阪大学はiPS細胞から眼球の黒目の部分にあたる角膜上皮組織を作製することに成功。2016年度中にも角膜上皮組織の再生医療の臨床研究を申請する。

角膜に炎症が起きたり、薬剤で傷ついたりすると視力障害が起こる。治療には死亡した人からの角膜移植が必要だが、ドナーは不足。国内の待機患者は約2600人とされている。iPS細胞から角膜シートを作製し、損傷部に移植することで、ドナー不足の角膜移植に変わる新たな治療として実用化を目指す。


脊髄損傷治療

慶應義塾大学は、2017年度にも脊髄を損傷して2~4週の患者にiPS細胞から作った神経幹細胞を移植する臨床試験を計画。脊髄損傷の治療では、受傷後2~4週間の内に神経幹細胞を移植する必要があるという。患者本人からiPS細胞を作ると半年以上かかるもようで、最適な移植時期に間に合わない。そのため、多くの人に適合しやすいタイプの細胞を集めて貯蔵する「iPS細胞ストック」を利用。ストック細胞から神経のもとになる細胞を作り、冷凍保存。必要になった時に解凍して患者に移植できるようにする。

背中を通る中枢神経が傷ついた脊髄の治療法はまだないため、期待されている。交通事故などで脊髄損傷になる人は毎年5000人以上。10万人以上がまひなどの後遺症を負っているという。


【サイバーダイン】
慶応義塾大学とサイバーダインは、脊髄再生医療とロボットスーツHAL医療用の複合治療で共同研究。臨床試験で効果を確認後、HALだけでは十分な効果が得られなかった患者にiPS細胞から作った神経細胞を移植。HALで訓練して治療するもよう。


加齢黄斑変性

理化学研究所などは、iPS細胞を使って目の難病である加齢黄斑変性を治療する臨床研究で移植の2例目を2017年前半に実施する見通し。1例目では患者自身から作ったiPS細胞を使用。2例目では他人の細胞からiPS細胞を作り、冷凍保存する「iPS細胞ストック」を使用する。患者自身の細胞を使う場合は治療を始めるまでに1年近くの期間を要し、費用は5000万円~1億円かかるが、iPS細胞ストックを利用すると治療を始めるまでの期間が半年に短縮でき、費用は1000万円を切る可能性があるという。

加齢黄斑変性は、網膜の中心にある黄斑部の機能が低下する病気で、視野の中心でものがゆがんで見えたり、小さく見えたり、視力が低下するという症状が起こる。国内の50歳以上の約1%み見られるという。


【大日本住友製薬・ヘリオス】
大日本住友製薬と網膜の黄斑を再生する医療に用いる「網膜細胞シート」を手がけるヘリオスは、2013年12月、加齢黄斑変性など眼疾患を対象としたiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞(RPE細胞)を用いた国内での共同開発契約を締結。大日本住友製薬が最大52億円の開発資金を提供し、国内の細胞医薬品を共同開発。ヘリオスが製造販売承認の取得・販売を行う。

また、ヘリオスが保有する眼疾患領域のiPS細胞由来のRPE細胞を大量培養する各種技術・ノウハウに関する実施許諾契約も締結している。