京都大学iPS細胞研究所は、2013年12月4日、治療に使うiPS細胞をあらかじめ作って備蓄する「iPS細胞ストック構想」を始めたと発表した。他人に移植しても拒絶反応が起きにくいiPS細胞を複数作って冷凍保存。2014年末の配布時には日本人の20%に対応できるiPS細胞を用意し、研究機関に提供する計画。

細胞を移植した場合に拒絶反応が起こる要因は「ヒト白血球抗体(HAL)」という6種類のタンパク質の違い。HLAは人に2セット備わっており、同じ種類の方のタンパク質が移植されないと拒絶反応を起こす。しかしながら、各タンパク質には多くの種類があり、全てが一致する人と出会うのは数千万人に1人の確率だという。 一方、他人に移植しても拒絶反応が起きにくい「特別な型」を持つ人がおり、こうした人の細胞は他人と適合しやすく、拒絶反応が起きにくくなる。

iPS細胞研究所では、この特別な型を日本人に多い順から75種類揃えれば、日本人全体の80%をカバーできるとしており、「iPSストック構想」では2018年までに日本人の30~50%、2023年までに80~90%に移植できるiPS細胞を揃えることを目標としている。


iPS細胞ストック構想

  2014年 2018年 2023年
対応率 20% 30~50% 80~90%


臍帯血からiPS細胞 2016年から提供開始へ

京都大学iPS細胞研究所は、2016年から赤ちゃんのへその緒にある臍帯血から作ったiPS細胞を企業や研究機関に提供を開始する。臍帯バンクから提供された臍帯血を使ってiPS細胞を作製。移植に使える品質かを検査。問題ないと確認できた段階で提供を始める。

細胞は分裂を繰り返す過程で遺伝子の変異が備蓄しやすい。臍帯血はこうした問題が少ないという。再生医療の臨床研究などに役立てる。


iPS細胞ストック構想への協力機関

機関 内容
岐阜大学 親知らずからiPS細胞作製。唾液などから特別な型を調査
兵庫さい帯バンク 臍帯血約1200人分を京都大学に提供。特別な型10種類を発見


【岐阜大学】
岐阜大学の手塚健一准教授らは、抜歯した親知らずからiPS細胞を作り、再生医療研究に使えるよう備蓄を始めた。移植しても拒絶反応が起きにくい細胞をそろえ、臨床試験などに役立てる。 臨床研究に使える品質の細胞を自動培養する装置などを導入し、体制を整備。各地の歯科医院と連携して抜歯した親知らずを集める。唾液などから拒絶反応が起きにくいタイプを探し、歯の中の細胞を取り出す。


【兵庫さい帯バンク】
他人に適合しやすく、拒絶反応が起きにくくなる特別なタンパク質の型を75種類見つけるためには、約10万人の血液検査が必要になる。兵庫さい帯バンクは約1200人分の臍帯血を京都大学に提供。特別な型が約10種類見つかっているという。


国際バンク構想

2014年1月16日、京都大学・山中伸弥教授は、iPS細胞を備蓄する各国が連携する「国際バンク」構想を明らかにした。各国が備蓄するiPS細胞の情報をデータベース化し、世界の研究者が細胞を融通し合うのに役立てる。また、作製手順や細胞提供者の同意取り付けルールの共通化なども進める。まず、日本、英国、フランス、韓国などの研究機関が協力する見通し。