東レは、自動車部品向け炭素繊維複合材の世界売上高を2020年度をめどに300億円と2015年度比3倍に引き上げる方針。軽量素材の炭素繊維は、燃料規制の強化から車体軽量化を進める自動車大手向けの供給が増える見通し。現在は高価なため採用車種は高級車に限られるが、今後量産化が進み安価になれば自動車向け炭素繊維市場は急拡大する可能性がある。

項目 方針
自動車向け炭素繊維 2020年度の売上高300億円と2015年度比3倍へ


東レの炭素繊維関連の動き

東レは、2018年3月、オランダの炭素繊維加工大手TACHDを買収すると発表。買収額は1200億円。TACHDは、熱で炭素繊維複合材を柔らかくしてから部品にプレスなどで加工する技術に強みを持つ。この技術を使えば、短時間・低コストで量産できることから、航空機や自動車、パソコンなど電子機器向けで採用しやすくなるという。TACHDの買収を機に炭素繊維複合材事業のうち1割強しかない自動車関連の売上拡大を狙う。

また、2014年12月に伊Saatiから自動車部品などに加工して使う炭素繊維シート事業を20億円で取得。2015年9月に欧州自動車メーカー向けに炭素繊維シートを製造している伊デルタテックの株式55%を50億円で取得した。さらに、2016年から2017年は約50億円を投じ、欧州で炭素繊維複合材料の加工能力を3倍に引き上げる。また、BMW向けに炭素繊維を供給する見通し。300億円を投資し、2020年までにメキシコ工場の生産能力を倍増する。

投資 計画
2018年3月 1200億円 低コスト・短時間で炭素繊維を加工できる技術を取得
2016年~2017年 80億円 欧州で炭素繊維の加工能力を3倍に引き上げ
2020年まで 300億円 メキシコ工場の生産能力を倍増


【燃料電池車向けの動き】
愛媛工場の敷地に燃料電池車(FCV)で使う電池用部材の専用生産棟を建設。投資額は50億円。年10万台規模のシート状電極部材を量産する。トヨタ自動車の「ミライ」とホンダの「クラリティフューエルセル」に供給。2020年前後に本格普及するとみて、いち早く量産体制を築く。

また、三井物産と炭素繊維を使った自動車部品の製造でノルウェーのヘキサゴン社と合弁を設立。ヘキサゴンの技術をもとに日本で工場を建設。2020年をめどに燃料電池車に積むタンクを日本の自動車メーカーに供給する。

項目 内容
電池用部材 投資額は50億円。年10万台規模を量産
タンク 2020年をめどに日本の自動車メーカーに供給


参考

【炭素繊維の量産 従来の10倍の速さで製造】
東レと帝人、三菱レイヨン、東大など共同研究チームは、炭素繊維を従来の10倍の速さで量産できる製造法を開発した。高温でも溶けにくいアクリル繊維を新たに開発。溶融防止のための前処理を不要とし、新たな原料ポリマーで過熱方法なども工夫して製造プロセスを簡略化した。この技術の開発により、消費エネルギーや二酸化炭素も半減できるという。


【炭素繊維量産車づくり計画 2020年をめど】
トヨタ自動車と名古屋大学は、2020年をめどに炭素繊維量産車づくりを目指す。2013年6月に炭素繊維など素材開発を手掛ける研究施設を開設。炭素繊維の加工・成型などでも連携を進める。

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