ギリシャ問題で2014年11月のギリシャによる資金支援策脱退表明から2015年7月のギリシャ向け金融支援の条件付き承認までの主な推移をまとめ。
ユーロ圏(EU)と国際通貨基金(IMF)は2010年5月にギリシャに対する2400億ユーロ(約34兆3000億円)の資金支援策を開始。ギリシャは資金支援を受けるかわりに財政緊縮策を強いられている。
ギリシャの行動とEU側の対応一覧
年 | 月 | ギリシャ | EU |
2014年 | 11月 | 資金支援策からの脱退を表明 | |
12月 | ギリシャ支援 14年12月末→15年2月末に延長 | ||
2015年 | 1月 | 大統領選で反緊縮派が勝利→債務減免要求へ | |
2月 | ギリシャの銀行はELAで資金調達へ | ECB ギリシャ民間銀行向け低利融資特例を撤廃 | |
ギリシャ支援 15年2月末→15年6月末に延長 | |||
4月 | IMFに4.6億ユーロの債務を返済 | ||
公的機関等に余剰資金を中央銀行に移させる政令 | |||
5月 | IMFに7.5億ユーロを返済 | ||
年金支給と公務員給与で25億ユーロ支払い | |||
6月 | 国民投票の実施を表明 | ECB ELA拡大枠900億ユーロの拡大見送り | |
IMFへの16億ユーロの債務が未返済 | |||
資本規制を導入 | |||
EUによる支援が終了 | |||
7月 | 国民投票実施→財政再建策受け入れ反対の民意 | ||
ESMを活用した金融支援を申請 | |||
ギリシャ議会 財政改革案を承認 | ギリシャ向け金融支援を承認 |
ギリシャ 資金支援策からの脱退を表明
2014年11月、ギリシャ政府は2010年からユーロ圏(EU)と国際通貨基金(IMF)が行っている資金支援策から2014年12月で脱退したいと表明。サマラス首相の政権基盤は不安定で、早期の解散総選挙に追い込まれるとの観測が浮上。不人気の財政緊縮策から早期に脱出し、支持率を向上したいとの思惑から表明を行ったとみられる。ギリシャは支援策が終了する時点での支援プログラム終了を希望した。
EU ギリシャ支援を2015年2月まで延長
2014年12月、ユーロ圏財務相会合は、2014年12月31日に終了するギリシャへの金融支援を2015年2月末までの延長を決めた。
ギリシャで大統領選が実施→政権交代へ
2015年3月にギリシャのパプリアス大統領が任期満了を迎えることから総選挙を実施。サマラス首相率いる与党と反緊縮財政派の急進左派連合の争いとなった。
与党はEUとIMFによる2400億ユーロの資金支援を受けるかわりに年金減額や公務員リストラ、増税などの財政再建策を実行。財政は改善傾向で、2014年4月には国債発行を再開した。一方、財政再建策などで国民の生活水準は悪化。6年連続で景気は悪化し、失業率は約26%で推移していた。急進左派連合はEUなどによる金融支援を再交渉などにより破棄すると表明。EUなどに債務減免を求めることを方針に掲げた。
2015年1月25日に総選挙が実施され、反緊縮財政派の急進左派連合が勝利した。
ギリシャ 債務減免要求へ
ギリシャの総選挙で勝利した急進左派連合は、財政再建・構造改革計画の見直しや債務減免をEUに要求。最低賃金の引き下げや固定資産税の廃止、EUやIMFによる2400億ユーロの資金援助の一部返済免除、既存債務を名目GDP成長率に金利を連動させる債権への振り替え、ECBが保有するギリシャ国債を償還期限のない永久債への振り替えなどを検討した。
一方、EU側は大幅な変更は認めない方針。
ギリシャ | EU |
最低賃金の引き下げや固定資産税の廃止 | 大幅な変更は認めない |
EU・IMFによる資金援助の一部免除 | |
債務を名目GDPに金利を連動させる債券に振替 | |
ECB保有のギリシャ国債を永久債へ振替 |
ECB ギリシャの民間銀行向け低利融資の特例撤廃→ギリシャ銀行はELAで資金調達へ
2015年2月4日、ギリシャの民間銀行向け低利融資の特例撤廃を決めた。ECBはユーロ圏の銀行から国債などを担保として受け取り、その見返りに低利融資を実施。格付けの低いギリシャ国債は特例で担保として認められ、ギリシャの銀行に融資が行われてきたが、その特例を撤廃した。
ギリシャの銀行は「緊急流動性支援(ELA)」の仕組みを使い、ギリシャの中央銀行からの資金調達に切り替えた。
※ELA:ユーロ圏の各国中央銀行が自国の金融機関に緊急融資する支援。規模が大きくなるとECBの承認が必要になる。経営不安で格付けが下がり、ECBによる定期的な資金供給を受けられなくなった金融機関が支援の対象となる。一方、ECBはELAによる資金供給が健全性の疑われる銀行への延命支援と判断すれば中止命令が出せる。
EU ギリシャ支援を2015年6月まで延長
2015年2月20日、2015年2月末に期限が切れるギリシャ向け金融支援を2015年6月末まで延長することを決めた。
ギリシャ 国民投票を実施
2015年6月27日、ギリシャのチプラス首相は、2015年7月5日にEUなどのギリシャ支援の条件である年金改革や税率引き上げなどの財政再建策を受け入れるかを問う国民投票を実施すると表明。EU側に2015年6月末に迫った金融支援の延長を求めるも、EUは要求を退けた。また、2015年6月28日、ECBはギリシャの国内銀行の資金繰りを支えているELAの支援枠900億円の上限拡大を見送った。
2015年7月5日、ギリシャで国民投票が実施され、財政再建策受け入れに対し反対が60%を超え、財政再建策の受け入れ反対の民意が示された。
ギリシャ ESMを活用した金融支援を申請
2015年7月8日、ギリシャは欧州安定メカニズム(ESM)を活用した金融支援をEUに申請。緊縮財政策と引き換えに3年間の融資を求めた。
※ESM:EU加盟国が金融危機のリスクにさらされた場合、ユーロ圏全体で資金を出し合って金融支援を提供し、支える仕組み。資金難に陥った国の財政資金を援助したり、資金不足に直面した金融機関の資本増強に必要な資金を融資したりする。
ギリシャ議会 財政改革案を承認
2015年7月11日、ギリシャ政府がEUから金融支援を受けるのに必要な財政改革案を賛成多数で可決した。ギリシャ政府は改革案と引き換えに3年間の新規融資や大幅な債務軽減措置を要求。支援では535億ユーロを要請しているもよう。
項目 | 内容 |
付加価値税 | レストランなどへの課税を13%→23%に引き上げ |
離島への軽減税率 | 観光業で豊かな島から段階的に廃止 |
法人税 | 26%→28%に引き上げ |
軍事費 | 削減額を2億ユーロから3億ユーロに増加 |
年金 | 早期退職の縮小や受給開始年齢を引き上げ |
貧しい年金生活者への特別給付制度を2019年までに段階的に廃止 |
ギリシャ向け金融支援を承認
2015年7月13日、ユーロ圏19ヶ国はギリシャへの金融支援の再開について、EUに提出した財政改革案のうち、主要なものを法制化することを条件に合意。2015年7月16日、ギリシャ議会はEUからの金融支援の条件として要求されていた財政改革法案を可決した。これを受けて、ユーロ圏19ヶ国は金融支援はESMを活用し、820億ユーロ~860億ユーロを融資する。期間は3年間。発動は早くて8月になる見通し。
項目 | 内容 |
金融支援 | 欧州安定メカニズム(ESM) |
融資額 | 820億ユーロ~860億ユーロ |
期間 | 3年間 |