政府は、2014年6月24日、新しい成長戦略をまとめた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成否を占う上で注目される。法人税率引き下げでは2015年度から数年間で20%台に引き下げることを目指すと明示。年末までに税率や財源を決める。雇用では時間ではなく成果に応じて給与を支払う制度を導入。混合診療の対象を拡大。農業では地域農協が創意工夫しやすいように仕組みを改める。人口減少問題では2064年に人口1億人程度を維持する目標を設定。第3子以降の出産・育児を重点支援するなど2020年までに税制や社会保障を整える。女性の就業では配偶者控除の見直し。外国人労働者では途上国の人材が働きながら技能を学ぶ外国人技能実習制度の対象を広げ、受け入れ期間も3年から5年に延ばす。 財政健全化では、国・地方を合わせた基礎的財政収支(PB)の国内総生産(GDP)比を2015年度までに2010年度比で半減させ、2020年度までに黒字化させる国際公約を踏襲。薬価改定では現在2年に1回行われている薬価改定のあり方について検討する見通し。

テーマ 分野 内容
成長戦略 法人税 2015年度から数年間で20%台に引き下げへ
雇用 週40時間を基本とする労働時間規制を緩和
混合診療 患者と医師の同意で混合診療を受けられる「選択療法」
女性就業 新たな保育資格や主婦の雇用で企業向け支援金を拡充
外国人労働者 特区での外国人材の活用
農業 農業委・農業生産法人・農協は規制改革実施計画に基づき改革
金融 NISAの非課税枠を年200万円以上に
エネルギー 原発は規制委の判断を尊重し再稼働
少子化対策 人口目標 50年後も1億人の人口を維持
少子化対策 第3子以降の出産・育児・教育を重点支援
歳出見直し 医療費削減 2年に1度の薬価改定の見直し
地域の医療体制 2015年国会で自治体の医療費適正化を促す仕組みの法案提出
高齢者医療 後期高齢者の負担軽減の特例見直し
公共事業 集約・活性化による社会資本整備
2015年度予算 財政目標 PBは2015年度までに赤字半減、2020年度までに黒字化
予算フレーム 2015年度予算で非社会保障経費は前年度と同水準


法人税率引き下げ

2015年度から数年間で20%台に引き下げることを目指すと明示。年末までに税率や財源を決める。法人税引き下げの原資として、企業の資本金や従業員への給与総額を課税対象とすうる外形標準課税の割合を高めることや公益方針の収益事業に適用している法人税の軽減税率廃止・縮小を検討している。

法人税率
日本 35%
アジア主要国 25%

【外形標準課税】
法人税の課税対象は「利益」なのに対し、「企業の資本金や従業員への給与総額」などを対象とする外形標準課税の割合を高めることを検討。資本金が1億円以下の企業にも課税対象を広げる。

【公益法人への課税強化】
34の収益事業に適用している法人税の軽減税率の廃止・縮小を検討。公益法人の資産運用益に対する法人税が非課税になる場合が多いことから、資産運用益への課税も議論。


雇用

専門職を中心に週40時間を基本とする労働時間規制を外し、労働時間ではなく成果に給与を支払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入する。具体的な対象者などを2015年に定め、2016年にも実施したい考え。

機関 年収 対象範囲
厚生労働省 高収入の専門職 研究者や金融ディーラーなど世界レベルの高度専門職
競争力会議 年収1000万円以上 商品企画や海外事業のリーダーなど管理職手前の人材まで拡大


混合診療

 公的保険が使える診療と使えない診療を組み合わせる「混合診療」の対象を2015年度から拡大する。 また、政府は患者が希望すれば混合診療を受けられるように規制を緩和する。現行の混合診療は約100種類にとどまり、医師側が希望しなければ認められない。今回の規制緩和で患者側が希望すれば未承認の新薬や医療機器を幅広く使える様にする。患者が希望し、国の専門家会議が審査。安全性や有効性が確認できれば混合診療が受けられるようになる。 一部のがん治療など先端医療は全国15ヶ所の中核病院に限られるが、リスクの低い治療は診療所も含め約1000の医療機関で受けられるよう広がる可能性がある。国内初の治療では15ヶ所の中核病院で国の専門家会議が安全性・有効性を判断。2例目以降は中核病院の承認で診療所など幅広い医療機関で治療が可能になる見通し。 厚生労働省は関連法案を2015年の通常国会に提出し、2016年度にも導入する方針。

概要 内容
承認 医師の希望→医師+患者の希望
初の治療 全国15ヶ所の中核病院を対象
安全性・有効性審査を3~6ヶ月→半分に短縮
2例目以降 中核病院が認めれば幅広い医療機関で利用可能
実施医療機関数は100~1000


人口・労働力減少問題

 人口減少問題では2064年に人口1億人程度を維持する目標を設定。第3子以降の出産・育児を重点支援するなど2020年までに税制や社会保障を整える。

【女性の就業】
配偶者控除の見直しなど税制・年金制度を2014年末までに検討。学資保育の受け入れ枠を2019年度までに30万人増加。育児経験を活かせる新たな保育資格を2015年に創設。主婦の雇用で企業向け支援金を拡充する。

  内容
女性の就業 配偶者控除の見直し
学資保育の受け入れ枠を2018年度までに30万人増加
育児経験を活かせる新たな保育資格を2015年に創設
主婦の雇用で企業向け支援金を拡充

【外国人労働者】
技能実習期間を現在の3年から5年に延長。新たな対象に介護や林業のほか「自動車整備業」、従業員や在庫の管理を手がける「店舗運営管理業」、食材を加工する「惣菜製造業」なども加える方針。また、EPA対象国以外の留学生でも日本で介護の資格を取れば国内で働けることや日系企業の外国子会社で働く人が日本に転勤して働くための新たな在留資格を作ることも検討。

分野 内容
技能実習期間 3年→5年
対象を拡大 介護・林業→自動車整備業、店舗運営管理業、惣菜製造業
EPA対象国以外の留学生でも介護資格獲得で日本で労働可
日系の外国子会社から日本に転勤するための新たな在留資格


NISAの非課税枠拡大

現在100万円の非課税枠を200~300万円程度に拡大したり、5年間の非課税期間の段階的な延長が検討されている。投資総額も500万円から1000万円に引き上げる。 また、子供版NISAを2016年にも創設する。祖父母や両親が子供や孫名義で投資する場合、年100万円以下であれば受け取る配当や売却益を非課税にする。投資上限は年100万円で、利用対象者は0~18歳にする案が有力。子供版NISAが創設された場合、NISAを通じて投資できる対象は約200万人に上ると試算されている。 2014年末の税制改正大網に向け調整される。

  内容
NISA 非課税枠 100万円→200万円~300万円に引き上げ
5年間の非課税期間の段階的な延長
子供版NISAを2016年にも開設


開業支援・廃業支援

 約5%にとどまる日本の開業率を英米並の10%台に引き上げるため、起業を目指す人への低利融資拡大を打ち出す。また、再建の見通しが立ちにくい事業の廃業促進を促す制度を導入する。導入時期は2015年半ばまでの見通し。

分野 内容
開業支援 貸出金利を0.5%引き下げ
廃業促進 廃業に必要な費用を低利で貸出
上場企業 独立した社外取締役の活用や株式持ち合いの解消

【開業支援】
2015年度から日本政策金融公庫が中小・ベンチャー企業を対象とした「新事業活動促進基金」の貸出金利を0.5%下げる案が有力。また、事業計画が優れていれば、年1%以下の金利で融資を受けられる見通し。

【廃業促進】
中小企業基盤整備機構が廃業に必要な費用を低利で貸し出す新制度を制定。債務超過に陥ってから廃業するのではなく、財務状況が悪化する前に清算し、再チャレンジする環境を整える狙い。

【上場企業】
起業統治(コーポレートガバナンス)の指針を作成。独立した社外取締役の活用や株式持ち合いの解消を促す内容を盛り込む。起業が稼いだ利益をM&Aや従業員の賃金引き上げに回るようにする狙い。


安倍政権 成長戦略

【医療・女性・若者の活躍】
女性の活躍を成長戦略の中核と位置付け、2013年度から2年間で20万人、5年間で40万人を保育できる環境を整えて待機児童解消を目指す。医療では、医療研究開発の司令塔「日本版NIH」の設立、ロシア・中東に先端医療センターを設けるなど、医療を成長産業に育てる環境を作る。

分野 内容
健康・医療 医療研究開発の司令塔「日本版NIH」を創設
医療機器を海外に売り込む官民共同の新組織設立
再生医療実用化へ規制緩和を推進
一般医薬品のネット販売解禁
労働 成長産業への再就職を支援する助成金拡充
フリーターの「試験雇用」に取り組む企業に助成金
若者・女性 就職活動解禁を「大学3年生に3月」からとするよう要請
2017年度に「待機児童ゼロ」へ環境整備
「育児休業3年」を経済団体に要請


企業・農業の活性化

今後3年間を企業の設備投資を促す集中期間と位置付け、税制・予算措置や規制改革など政策を総動員する。民間企業の設備投資を2012年の63兆円から2015年に70兆円に引き上げる。また、経済外交を強化して原子力発電所や鉄道などを売り込み、日本企業のインフラ受注額を2010年の10兆円から2020年に30兆円規模に引き上げる方針。

分野 内容
企業の活性化 リース活用を促す保険制度創設
民間設備投資額 2012年63兆円→2015年70兆円
海外インフラ受注額 2010年10兆円→2020年30兆円
農業の活性化 都道府県が耕作放棄地を集約し、農業生産法人に貸し出す制度を創設
農業所得を10年間で倍増
農林水産品の輸出額を2020年までに1兆円に倍増
クールジャパン・観光 訪日外国人数 年間800万人→2000万人
放送コンテンツ輸出額を2018年に現在の3倍以上
教育 大学の外国人教員を3年間で倍増


公的ビジネスに民間の活力を活用

電力・医療・インフラ整備など公的ビジネスの分野で規制改革や特区創設を進め、民間の活力を活用する。電力小売りの完全自由化を進めるほか、空港、道路整備で民間資金を活用する。

分野 内容
公的ビジネスに民間活力 1人あたりの国民総所得を年3%増。10年間で150万円以上増
2023年までの電力関係投資を30兆円規模に拡大
2020年に外国企業の対日直接投資残高を35兆円に倍増
農地利用電子マップを整備