炭素繊維は風力発電翼やシェールガスの燃料輸送用タンク、自動車向けで需要拡大が見込まれる。三菱ケミカルホールディングスは、自動車向けに注力。独BMWのメイン構造材や日産自動車の「GT-R」に採用されている。

自動車向け炭素繊維は、燃料規制の強化から車体軽量化を進める自動車大手向けの供給が増える見通し。現在は高価なため採用車種は高級車に限られるが、今後量産化が進み安価になれば自動車向け炭素繊維市場は急拡大する可能性がある。

三菱ケミカルホールディングスは、自動車分野向け世界需要は2020年に2015年の5倍の2万5000トンに達すると予測。2020年度の炭素繊維事業の売上高を1000億円規模に拡大させる方針。自動車や圧力容器、風力発電翼など産業用途を強化する。

三菱レイヨンは2013年から独BMWの電気自動車向け炭素繊維原料の生産を開始。2014年にはドイツの自動車用炭素繊維強化プラスチック製部品メーカーであるベティエの株式を取得。2015年には米国に炭素繊維の新工場の建設やドイツに炭素繊維の中間機材の生産工場を建設することを決めた。

2016年には広島事業所の生産能力引き上げを決定。2400トンの生産能力を2017年9月までに3900トンに増やす計画。米カリフォルニア工場では2000トンから4000トンに引き上げる予定。


【三菱ケミカルの炭素繊維の見通し】

項目 2020年
炭素繊維事業の売上高 1000億円
自動車向け炭素繊維世界需要 2万5000トン


三菱ケミカルの自動車向け炭素繊維の動き

日米での生産能力を現在の1万100トンから2018年に1万5400トンに引き上げる。また、2020年までに1万7400トンへの引き上げも検討されているもよう。ドイツでは炭素繊維の中間基材の生産工場を建設。稼働は2016年9月。

投資額 内容
2015年  150億円 広島の事業所の生産能力 2700トン→17年9月3900トン
米国に新工場。稼動は2018年。生産能力は2000トン
5~10億円 独に炭素繊維の中間材の工場。稼動は2016年9月
2014年 30億円 独自動車用炭素繊維部品メーカーを買収
2013年 - 独BMWの電気自動車向け炭素繊維原料の生産開始


【日米での増産】
現在の生産能力を1万100トンから2018年に1万5400トンにする。投資額は約150億円とみられる。国内では広島県の大竹事業所の生産能力を2017年9月までに2700トンから3900トンに引き上げる。投資額は約20億円。米国では2016年に米カリフォルニア工場で生産能力を2000トンから4000トンに引き上げる予定。2018年までには生産能力2000トンの新工場も建設する。

また、2020年までに1万7400トンへの引き上げも検討している。


【イタリアでの生産】
2017年10月、自動車部品を製造するイタリアのC.P.Cに出資。投資額は80億円強。出資比率は44%。C.P.Cは炭素繊維と樹脂を組み合わせた複合材に強みを持ち、欧米の高級車に複合材の成形部品を供給している。三菱ケミカルは、C.P.Cと連携して量産車での炭素繊維複合材の採用を目指す。

2016年9月、三菱レイヨンは伊ランボルギーニと自動車用炭素繊維複合材の共同開発を検討する基本合意書を締結したと発表。加工時間を短縮したり、工程を自動化したりする技術を確立する。確立できれば、量産時の効率を高められるため、より多くの部位に炭素繊維複合材を活用できるようになるという。ランボルギーニが将来発売する新型車での採用を目指す。

投資額 内容
80億円 伊C.P.Cに出資 量産車での炭素繊維の採用を目指す
- 伊ランボルギーニと炭素繊維の共同開発


【ドイツでの生産】
2014年9月に独自動車用炭素繊維強化プラスチック製部品メーカーのベティエの株式51%を取得。取得額は30億円。欧州の自動車用の強化を図る。また、炭素繊維の中間基材の生産工場をドイツに建設。投資額は5~10億円。生産能力は年6000トン。稼働は2016年9月。生産するのはSMCと呼ぶ炭素繊維強化プラスチックの中間材。自動車の構造部品などの立体成型や大量生産する部品に適しているという。

投資額 対象
30億円 独自動車用炭素繊維強化プラスチック製部品メーカーの株式51%を取得
5~20億円 炭素繊維強化プラスチックの中間材生産工場建設。稼働は2016年9月


【BMW向け】
2013年9月から独BMWの電気自動車向け炭素繊維原料の生産を開始。年3000トンの量産ラインを整備。2014年には6000トンに拡大する。

BMWは炭素繊維の生産能力増強のため、米国の合弁工場に約200億円を投資。年産能力を9000トンに引き上げ。2014年にはプラグインハイブリッド車のスポーツカーにも採用する計画。


航空機向け

強度を1.5倍に高めた高強度炭素繊維を開発し、エアバスの新型機「A320neo」のエンジン部品に供給する。三菱レイヨンは炭素繊維事業のうち、航空機関連は10%。将来はエンジン部品で実績を30%程度まで高める計画。


参考

【最短2分で成型 コスト半減】
三菱ケミカルは、次世代の炭素繊維複合材を開発した。2種類の材料を組み合わせて、部品の成型にかかる時間を最短2分に短縮。従来の複合材と比べて生産コストを半減できるという。

炭素繊維は鉄とアルミと比べて加工コストがかさむため、主に販売価格が500万円を超える高級車に採用されてきた。三菱ケミカルの新加工技術が広がれば、300万円前後の価格帯の車にも構造部材として使いやすくなる。
 

【炭素繊維の量産 従来の10倍の速さで製造】
東レと帝人、三菱レイヨン、東大など共同研究チームは、炭素繊維を従来の10倍の速さで量産できる製造法を開発した。高温でも溶けにくいアクリル繊維を新たに開発。溶融防止のための前処理を不要とし、新たな原料ポリマーで過熱方法なども工夫して製造プロセスを簡略化した。この技術の開発により、消費エネルギーや二酸化炭素も半減できるという。


【炭素繊維量産車づくり計画 2020年をめど】
トヨタ自動車と名古屋大学は、2020年をめどに炭素繊維量産車づくりを目指す。2013年6月に炭素繊維など素材開発を手掛ける研究施設を開設。炭素繊維の加工・成型などでも連携を進める。


三菱ケミカルホールディングスの業績推移

 IFRS 売上収益 営業利益 利益 資本 持分 自己資本比率
2017年(予) 3兆6500億円 2900億円 1370億円 - - -
2016年 3兆3760億円 2686億円 1562億円 1兆6918億円 1兆913億円 24.5%
日本基準 売上高 経常利益 純利益 純資産 総資産 自己資本比率
2015年 3兆8230億円 2706億円 464億円 1兆5545億円 4兆615億円 22.9%
2014年 3兆6562億円 1630億円 608億円 1兆5886億円 4兆3230億円 22.6%
2013年 3兆4988億円 1030億円 322億円 1兆3148億円 3兆4793億円 25.8%
2012年 3兆885億円 870億円 185億円 1兆2033億円 3兆3077億円 24.6%
2011年 3兆2081億円 1336億円 354億円 1兆1449億円 3兆1739億円 24.2%
2010年 3兆1667億円 2238億円 835億円 1兆1140億円 3兆2940億円 23%


【炭素繊維を含むデザインド・マテリアルズセグメント】
※食品機能材、電池材料、精密化学品 樹脂加工品 複合材 無機化学品 化学繊維

  売上高 営業利益 営業利益率
2016年 8411億円 815億円 9.6%
2015年 8858億円 757億円 8.5%
2014年 8416億円 560億円 6.6%
2013年 8157億円 465億円 5.7%
2012年 7123億円 225億円 3.1%
2011年 6869億円 240億円 3.4%
2010年 6821億円 364億円 5.3%

 

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