日本の再生医療はiPS細胞などの研究では世界の最先端を走るが、再生医療の実用化では欧米や韓国に引き離されている。2012年末時点で日本が製品化したのは皮膚と軟骨の2品目のみ。一方、欧州は20品目、韓国は14品目、米国は9品目と大差をつけられている。政府は再生医療製品の実用化を促している。
産学官が連携し、細胞の量産技術を共同開発。テルモは、心不全患者向け心筋細胞シートを厚生労働省に再生医療製品として製造販売承認を申請。細胞医薬品ではJCRファーマがヒトの細胞を培養し、免疫不全などの治療に使う「細胞医薬品」の生産に乗り出している。
再生医療周辺産業
コード | 企業 | 内容 |
8056 | 日本ユニシス | 細胞の冷凍装置 |
6754 | アンリツ | 再生医療製品の診療情報システム |
【日本ユニシス】
細胞を生きたまま冷凍する装置の実用化を目指す。再生医療の実用化には細胞を加工したり移植したりする直前まで冷凍して品質を保つ必要があるという。また、冷凍保存した容器の温度や湿度などを遠隔で管理するシステムも開発する。
【アンリツ】
再生医療製品の製造から流通、医療機関で患者に投与されたデータを一元的に管理するシステムを開発する。薬事法の改正で、再生医療製品の早期承認を認める代わりに、長期に渡って患者情報を記録することが求められることに対応する。2017年の販売を目指す。
細胞の量産技術
産学官が連携し、再生医療の技術を使って人の心臓の筋肉や神経、網膜などを安く大量に作り出す手法を確立するため、共同開発に乗り出す。4チームが設立され、経済産業省は各チームに1~7億円の補助金を出す。細胞の培養、臓器の形成、保存・輸送の作業工程を自動化。2018年の実用化を目指す。
分野 | 企業・大学 |
心筋・細胞 | 富士フィルム |
リプロセル | |
京都大学 | |
慶應大学 | |
信州大学 | |
網膜・肝細胞 | ニコン |
大日本印刷 | |
大阪大学 | |
東京大学 | |
女子医科大学 | |
軟骨 | ニプロ |
太陽日酸 | |
東京大学 | |
東海大学 | |
心筋梗塞治療細胞 | Clio |
東北大学 | |
名古屋大学 |
輸出
テルモは2015年にも政府と連携し、カタールやサウジアラビアに心筋の再生医療技術を売り込む。治療技術の知的財産権を現地の医療法人が使えるようにしたり、再生医療製品を販売するのが柱。細胞の培養機器なども一体で売り込む計画。
コード | 企業 | 内容 |
4343 | テルモ | 心不全患者向け心筋細胞シートの臨床試験実施中。2015年に中東に輸出計画 |
商品
富士フイルムHDは、2013年9月1日、再生医療関連の製品・サービスの研究や事業化を早めるための専門部署を設立。医薬品の事業部や研究所が持っていた機能を独立させるため、研究開発を担う「再生医療研究所」と事業化を進める「再生医療事業推進室」を設置する。再生医療製品で日本が製品化しているのは皮膚と軟骨の2品目のみで、富士フイルムが出資しているジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)が製品を販売している。富士フイルムは2014年内にJ-TECを連結子会社化。再生医療製品の開発加速と事業領域の拡大を進める。
企業 | 内容 |
富士フイルムHD | 再生医療製品の開発加速と事業領域拡大 |
J-TECを連結子会社化 | |
J-TEC | 再生医療製品「ジャック」「ジェイス」を販売 |
【ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング】
自家培養技術を利用した再生医療製品を開発。製品は皮膚と軟骨、角膜上皮の3種類で、患者本人の細胞を培養し、本人に移植する「自家移植」を対象にしている。
やけど治療向け自家培養表皮「ジェイス」は2007年に製造販売が承認。2009年1月に保険対象となった。やけどを負った患者から正常な皮膚を採取し培養、移植する。将来的に国内売上高は30億円まで伸びる可能性があると見込んでいる。
軟骨欠損治療向け「ジャック」は2012年7月に製造販売が承認。2013年4月に保険対象となり、販売を開始した。患者のひざ関節に器具を差し込み、正常な軟骨を採取。4週間培養し軟骨を作製。欠損部に埋め込む。将来的に国内売上高は数百億円まで伸びる可能性があると見込んでいる。
臨床試験
企業 | 内容 |
オリンパス | 膝の軟骨細胞を培養し、患部に移植する技術 |
テルモ | 心不全患者向け心筋細胞シート |
先端医療振興財団 | ひざ関節軟骨損傷培養軟骨 |
【オリンパス】
膝の軟骨細胞を培養し、患部に移植する技術の臨床試験を2015年内に開始。順調にいけば、2018~2019年に厚労省から再生医療製品として製造販売承認を取得できる見通し。
軟骨培養には提携先の韓国セウォンセルロンテックの技術を活用。移植後に骨膜で覆う作業が不要な点が特徴で、患部を大きく切開せずに関節用内視鏡が使用できる。患者負担を減らせるほか、オリンパスの内視鏡販売の拡大につながるとみている。将来的に、老化で軟骨が摩耗・変形して関節が痛む「変形性膝関節症」に対象を広げたい考え。治験対象となる患者は国内で数万人~数十万人とみられる。
【テルモ】
心筋の再生医療について2007年より細胞シートの開発に着手。2012年から治験を開始。2014年に完了した。2014年10月に虚血性心疾患による重症心不全を対象とした骨格筋芽細胞シートについて、厚生労働省に再生医療等製品として、製造販売承認を行った。安全性などの審査には約1年かかる見通し。
【先端医療振興財団】
ひざ関節軟骨損傷の再生医療の治験を神戸大医学部と共同で2012年から実施。関節鏡を患者のひざに差し込み微量の軟骨を採取。培養して移植する。
細胞医薬品
JCRファーマが人の細胞を培養し免疫不全などの治療に使う「細胞医薬品」の生産に乗り出す。健常者の骨髄液に含まれる幹細胞の一種を医薬品として使用し、移植手術の際に起きる重い拒絶反応を抑える効果が期待できるという。2015年に販売できる見通し。また、大日本住友製薬はiPS細胞由来の細胞シートを使った眼科疾患の治療法を研究。ニプロは幹細胞を使った脊髄損傷治療を研究している。
コード | 企業 | 内容 |
4552 | JCRファーマ | 人の細胞を培養し免疫不全などの治療に使用 |
4506 | 大日本住友製薬 | iPS細胞由来のシートで眼科治療の治療法を研究 |
8086 | ニプロ | 幹細胞で脊髄損傷の治療法を研究 |
【JCRファーマ】
人の細胞を培養し免疫不全などの治療に使う「細胞医薬品」の生産に乗り出す。健常者の骨髄液に含まれる幹細胞の一種を医薬品として使用。移植手術の際に起きる重い拒絶反応を抑える効果が期待できるという。2014年夏に厚生労働省に製造販売認証を申請。2015年に販売できる見通し。
約5億円を創始し、年500~600人分の生産体制を整備。市場規模は年数十億円とみられている。
細胞培養
企業 | 内容 |
富士フイルム | 細胞培養に使うバイオ材料。14年12月に発売 |
川崎重工業 | 細胞自動培養システム(R-CPX) |
ニプロ | iPS細胞の大量培養装置 |
旭化成 | がん治療のための細胞を培養・加工する装置 |
テラ | |
メディネット | 2015年5月に細胞加工施設を稼動 |
タカラバイオ | 2015年度をめどに医療用細胞を量産。年数百人→最大2400人分 |
【川崎重工業】
ヒト移植用の細胞培養施設(CPC)と同じ環境下で細胞培養の完全自動化に成功した細胞自動培養システム(R-CPX)を開発。CPCや熟練技術者がいない医療機関でも再生・細胞医療の臨床応用が可能になる。
【ニプロ】
京都大学などと共同で、iPS細胞の大量培養装置を開発。従来、細胞の培養にはボトルの上の容器内で細胞を増やしており、小型化に限界があった。装置内にiPS細胞を入れる袋状の容器を6個並べ、効率性を高めた。再生医療向けに2015年の実用化を目指す。
【旭化成・テラ】
がん治療のための細胞を培養・加工する装置の臨床研究を始めるもよう。2013年に性能や安全性の評価を進め、2014年に臨床研究に入る。2014年に培養した細胞を人に投与し、安全性や効果を調べる。現在、手作業で行われている細胞培養を効率的に行えるよう普及を目指す。
Muse細胞
三菱ケミカルホールディングスの子会社の生命化学インスティチュートは、Muse細胞を利用した再生医療開発を進めているClioを買収。Muse細胞は東北大学の研究チームが発見した幹細胞で、生命体内にあるうえ、様々な組織に分化する能力が高いという。心筋梗塞や肝硬変など損傷した細胞を修復する効果に期待されている。2016年度に臨床研究を開始し、2020年度に製品販売を開始。2025年度に売上高100億円を目指す。
コード | 企業 | 内容 |
4188 | 三菱ケミカルHD | 2016年度 臨床研究開始 |
2020年度 製品販売開始 | ||
2025年度 売上高100億円 |