欧州連合(EU)は、2015年2月20日、2015年2月末に期限が切れるギリシャ向けの金融支援を6月末まで延長することを決めた。一方、72億ユーロ(約9400億円)の支援融資実行は留保した。融資の実行には4月末までにギリシャが詳細な財政改革案を提出し、EUが承認する必要がある。
ギリシャ問題の焦点
ギリシャで2015年1月25日に実施された総選挙で、反緊縮派の急進左派連合が過半数に近い議席を確保し第1党になった。
チプラス政権は総選挙で公約した財政再建・構造改革計画の見直しや債務減免を欧州連合(EU)に要求する方針。最低賃金の引き下げや固定資産税の廃止、EUや国債通貨基金(IMF)による総額2400億ユーロ(約32兆円)の資金援助の一部返済免除、既存の債務を名目GDP成長率に金利を連動させる債券への振り替え、ECBが保有するギリシャ国債を償還期限のない永久債への振り替えなどを検討しているもよう。
成長率への連動債が実現すれば、ギリシャは緊縮財政よりも成長に重点を置いた政策を実現しやすくなる一方、ユーロ建て永久債の発行は、元本の返済を凍結する狙いがあるほか、ギリシャがユーロに残留する意思を示す考えがあるとみられる。
一方、EU側は大幅な変更は認めない考え。
ギリシャ 国民投票を実施
ギリシャのチプラス首相は、2015年6月27日、ギリシャ支援問題で2015年7月5日に国民投票を実施すると表明。6月末に迫った金融支援の期間延長を求めた。一方、欧州連合(EU)は金融支援の期限延長の要求を退けた。
独メルケル首相と仏オランド大統領は、2015年6月26日、チプラス政権が年金改革や税率引き上げなどの財政再建策を受け入れれば、支援期間を2015年11月まで延長し、約155億ユーロ(約2兆円)を4回に分けて融資する案を提示するも、ギリシャは2015年6月28日に国会で国民投票の実施が承認された。
ECBによるギリシャの銀行向け支援
欧州中央銀行(ECB)は、2015年2月4日、ギリシャの民間銀行向け低利融資の特例撤廃を決めた。ECBはユーロ圏の銀行から国債などを担保として受け取り、その見返りに低利融資を実施。格付けの低いギリシャ国債は特例で担保として認められ、ギリシャの銀行に融資が行われてきたが、その特例を撤廃。ギリシャの銀行はECBから低利融資を受けられなくなった。
その後、ギリシャの銀行は「緊急流動性支援(ELA)」と呼ばれる仕組みを使い、ギリシャの中銀から資金を調達。ECBはELAによる支援枠の上限を徐々に引き上げるも、2015年6月28日、900億ユーロ(約12兆円)とされる支援枠の上限額の拡大を見送った。
信用不安への対応
ギリシャを除くユーロ18ヶ国の政府は「あらゆる措置をとる準備がある」との声明を公表し、市場の動揺を防ぐ措置を協議。仮にギリシャ発の信用不安が欧州全域に広がりそうな場合には、欧州安定メカニズム(ESM)などを通じ、金融機関や政府の資金繰りを支援する見通し。
【欧州安定メカニズム(ESM)】
EU加盟国が金融危機のリスクにさらされた場合、ユーロ圏全体で資金を出し合って金融支援を提供し、支える仕組み。資金難に陥った国の財政資金を援助したり、資金不足に直面した金融機関の資本増強に必要な資金を融資したりする。金利高騰など国債市場の安定が損なわれた場合は、ユーロ圏加盟国の国債を買い支える。
ギリシャ問題の推移
2015年 | スケジュール |
2月4日 | ECB ギリシャ民間銀行向け低利融資特例を撤廃 |
2月12日 | ECB ELA支援枠 600億ユーロ→650億ユーロ |
2~3月 | 20億ユーロの返済 |
4月9日 | IMFに4.6億ユーロの債務返済 |
4月末 | ギリシャと改革案で合意→延期 |
5月12日 | IMFに7.5億ユーロの返済 |
5月末 | 年金支給と公務員給与支払いで25億ユーロ |
6月28日 | ECB ELA支援枠900億ユーロの拡大見送り |
6月 | IMFに16億ユーロの返済 |
6月末 | EUによる支援が終了 |
7月5日 | ギリシャで国民投票実施 |
7~8月 | ECBに70億ユーロを返済 |
ギリシャとEUの主張
ギリシャ | EU |
最低賃金の引き下げや固定資産税の廃止 | 大幅な変更は認めない |
EU・IMFによる資金援助の一部免除 | |
債務を名目GDPに金利を連動させる債券に振替 | |
ECB保有のギリシャ国債を永久債へ振替 |