シャドーバンキングとは、規制が厳しい銀行を介さずに資金をやりとりする金融取引全般を指す。中国では融資が制限されている銀行が、企業や個人に投資商品を紹介することで、資金が地方政府傘下の投資会社「融資平台」や不動産会社など公共投資に流れ込んでいるとみられる。中国の地方政府が出資する資金調達会社の負債総額は、2012年末で19兆元(約307兆円)に達しているとの試算もある。投資先は回収に時間が必要なインフラ事業が多く、利払い費用の確保が大きな課題となっている。
理財商品規模
2013年6月29日、銀行業監督管理委員会の尚主席は、中国の理財商品規模を8.2兆元(約130兆円)と公表した。中国GDPの約16%に相当する。また、英フィッチ・レーティングスは13兆元としており、実際の規模は不透明となっている。
機関 | 2013年 | 理財商品規模 |
銀鑑会 | 6月 | 8兆2000億元 |
英フィッチ・テーティングス | 6月 | 13兆元 |
【融資平大の債券発行額】
地方政府傘下の投資会社「融資平台」が2013年に市場から調達した資金が9679億元(約16.5兆円)と過去最高を更新したようだ。上海市などを除き地方債を発行できない地方政府が融資平台に債券発行などによる資金調達と道路や鉄道などへのインフラ投資を代行委託。資金調達のために発行する債券は理財商品に組み込まれており、シャドーバンキングの代表的な存在となっている。なお、中央政府は地方政府による保証を禁止している。
2013年 | |
融資平台の債券発行額 | 9679億元 |
【中国4大銀行の理財商品残高】
中国の4大銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行)の元本保証のない理財商品販売残高。2013年末時点は2.8兆元(約45兆円)、2014年6月時点は2兆9630億元(約52兆円)。
2013年末 | 2014年6月 | |
理財商品販売残高 | 2.8兆元 | 2.9兆元 |
2013年1-6月 | 2014年1-6月 | |||
純利益 | 不良債権額 | 純利益 | 不良債権額 | |
工商銀行 | 1383億元 | 818億元 | 1481億元 | 1057億元 |
建設銀行 | 1197億元 | 803億元 | 1306億元 | 956億元 |
農業銀行 | 924億元 | 867億元 | 1040億元 | 974億元 |
中国銀行 | 807億元 | 695億元 | 858億元 | 858億元 |
計 | 4311億元 | 3183億元 | 4724億元 | 3845億元 |
対策
【中国国務院】
中国国務院は2016年をめどに地方政府傘下の投資会社による資金調達を禁止する方針。かわりに地方債の発行を条件付きで解禁し、地方政府が直接地方債を発行することで財源を賄う体制にする。
また、2013年7月5日にはシャドーバンキングの膨張で起こりかねないリスクを厳しくすることなどを柱とした金融行政・政策指針を発表し10項目にまとめた。不良債権の温床と指摘されている地方政府傘下の投資会社「融資平台」などへの監視を強化。ストレステストなどを行い、金融システムリスクが起こることなどを未然に防ぐことを重視する。過剰な生産能力を抱える産業に対しては、メーカーが許可を得ずに行おうとする生産能力増強への融資を厳しく禁じ、投資による生産過剰の激化を防ぐ。シャドーバンキングを金融免許を持たないネット金融仲介会社や理財商品販売会社、金融免許を持たないノンバンクや信用保証会社、金融免許を持つファンドや理財商品業務などを営む金融機関の3つに分類。国務院が主導し、包括的な管理体制を整備する。銀行には理財商品の専任管理部門を置き、通常資産と分けて管理することを要求。ノンバンクや信用保証会社は中央政府が全国統一の規制制度を確立し、地方政府が管理監督。理財商品の販売会社やネット仲介会社は、中国人民銀行が関係部門と協業し、規制制度や監督機関の枠組みを作るとしている。金融当局が公表している統計は銀行の理財商品残高、信託融資残、債券発行額などに限られ、金融当局も全容を把握できていないことから、統計も整備する。
項目 | 内容 |
中国国務院の政策指針 | 穏健な金融政策を継続し、合理的な通貨供給量を維持 |
重点産業の構造改革を促進 | |
零細企業の発展を支援 | |
農業分野への貸付強化 | |
個人向け金融の強化 | |
企業の海外進出を支援 | |
資本市場の多層化を促進 | |
保険の機能を強化 | |
民間資本の金融業への受け入れ拡大 | |
金融リスクを厳しく防止 |
【銀行業監督業務委員会】
2013年3月、理財商品の主要な販売者である銀行にたいし、理財商品の販売金額の総額を一定割合に抑えるように通知。購入者に対する商品の十分な説明なども義務付けた。また、理財商品の情報を当局に登録するよう銀行に義務付け。2011年、2012年に販売した理財商品も含め個人向けの商品を対象に、2013年7月31日までに登録を完了するよう求める。
2013年 | 対策内容 |
7月 | 理財商品の販売金額を銀行の総資産の一定割合に抑えるよう通知 |
3月 | 理財商品の情報を当局に登録するよう義務付け |
地方政府の動き
財政省は地方政府に2015年1月5日までに2014年末時点の返済すべき債務を報告数量要求。江蘇省と新疆ウイグル自治区の地方政府は傘下投資会社の新規発行再建で「償還責任を負わない」とした。債券を発行しにくくすることで、地府政府の過剰債務や投資を解消する。
実体経済と金融取引の乖離
中国人民銀行は、2014年1月15日、企業や個人など社会全体に供給されたマネー規模を示す指標「社会融資総量」が2012年比10%増の17兆2900億元(約298兆円)になったと発表した。銀行融資に加え、債券発行、銀行以外の貸出なども含んでいる。2013年の社会融資総量のうち、銀行による人民銀建て融資比率は51.4%と0.6ポイント低下。一方、シャドーバンキングの代表格と言われる企業間のまた貸しは倍増し2兆5500億元まで膨らんだ。信託会社を通じた融資も40%増となり、両社全体に占める割合は16%から25%に上昇した。一方、中国のGDP成長率は2012年、2013年とも7.7%だった。
【GDP成長率と社会融資総量増加率】
2012年 | 2013年 | |
GDP成長率 | 7.7% | 7.7% |
社会融資総量 | 22.6%増 | 10%増 |
【社会融資総量推移】
2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | |
社会融資総量 | 7兆元 | 14兆元 | 14兆元 | 12.8兆円 | 15.7兆元 | 17.3兆元 |