日銀は、2015年1月21日、金融政策決定会合で2015年の物価上昇率見通しを1.7%から1.0%に下方修正した。2014年後半からの原油価格下落の影響で、エネルギー価格が2015年度の消費者物価を0.7~0.8%押し下げると試算。「消費者物価は基調的な動きに変化はないが、原油価格の大幅な下落の影響から2015年度にかけて下ぶれる」とした。
また、日銀はドバイ原油価格を2016年にかけて1バレル70ドル程度に緩やかに上昇していくという前提を設定。2015年終盤にかけて原油安の影響が次第に薄まり、雇用や賃金の回復を背景に物価が上昇。2016年の物価上昇率を2.1%から2.2%に上方修正した。
【金融緩和】
2014年10月31日、金融政策決定会合で追加金融緩和を決定した。年60兆円から70兆円のペースで増やすとしていたマネタリーベースを約80兆円に拡大する。中長期国債の保有残高を50兆円から80兆円に増やし、平均残存期間も7年から7~10年と最大3年程度延長する。上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の保有残高を3倍に増やす。ETFは3兆円、REITは900億円とする。また、ETFの買い入れ対象に新たにJPX日経400に連動するETFを加える。長期国債の買い入れを増やすことで2015年末には日銀が国債全体の30%を保有する見通し。
項目 | 内容 | |
マネタリーベース | 60兆円~70兆円→80兆円 | |
中長期国債 | 50兆円→80兆円 | |
平均残存期間 | 7年→7~10年 | |
上場投資信託(ETF) | 1兆円→3兆円 | |
JPX日経400に連動するETFを追加 | ||
不動産投資信託(REIT) | 300億円→900億円 |
【景気判断】
項目 | 内容 |
景気 | 持ち直している→緩やかに回復しつつある(14年7月)→緩やかに回復している(14年9月)→緩やかな回復を続けている(15年5月) |
先行き | 緩やかに回復していく |
物価 | おおむね見通しに沿って推移する→原油価格の下落から2015年度にかけて下ぶれる(15年1月)→基調は今後着実に改善していく(15年5月) |
消費者物価指数 | 「0%後半となっている」→「1%程度となっている」(14年12月) |
設備投資 | 持ち直しが明確→緩やかに増加(5月) |
【リスク要因】
2014年1月、今後のリスク要因として「新興国・資源国の経済動向、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどが上げられる」とした。2014年8月8日、黒田総裁は「イラクやウクライナなどの地政学リスクがやや高まってきている」との認識を示した。米国のイラク限定空爆承認に関連し「イラクは重要な石油輸出国」「石油価格が上昇すれば、石油輸入国であるアジア諸国や欧州経済に影響が及ぶ」とした。ウクライナ情勢に関しては「ロシア経済への影響とロシアとの結びつきが強い欧州経済に影響が出る懸念がある」とした。
地政学リスクによって世界経済が減速すれば、日本の輸出にも影響が及ぶ可能性がある。
年 | リスク要因 |
2014年1月 | 新興国・資源国の経済動向 |
欧州債務問題の今後の展開 | |
米国経済の回復ペース | |
2014年8月 | イラクやウクライナなど地政学リスクがやや高まり |
【物価】
黒田東彦総裁は、2015年4月8日、金融政策決定会合で「基調はむしろしっかりしてきている」、原油安の物価上昇率への影響が薄れる2015年秋以降「物価上昇率はかなり加速していくだろう」とした。
【出口戦略】
日銀の黒田東彦総裁は、2014年10月28日、参院財政金融委員会で2015年度にも「(金融緩和からの)出口戦略について議論することは間違いない」と述べた。
【金融機関向け貸出制度】
日銀は、2015年1月21日、金融政策決定会合で2015年3月末としていた金融機関の貸出増加を支援する制度を1年間延長し、支援枠を拡充することを決めた。2016年3月末まで年0.1%の固定金利で4年間の資金を供給する。成長分野に融資した金融機関の低利融資枠を7兆円から10兆円に増やす。
日銀の見通し
日銀は、2013年4月4日、金融政策決定会合で、2年間で前年比2%の物価上昇率を目指す金融緩和導入を決めた。政策目標を金利からマネー量に切り替え、市場に供給するお金の量を示すマネタリーベースを2年間で倍増させる。また、国債に加え、上場投資信託(ETF)などのリスク資産も買い増す。借入金利の低下を促し、企業の投資を後押しする。
【バランスシート】
2012年末 | 2013年末 | 2014年末 | |
マネタリーベース | 138兆円 | 200兆円 | 270兆円 |
長期国債 | 89兆円 | 140兆円 | 190兆円 |
CP等 | 2.1兆円 | 2.2兆円 | 2.3兆円 |
社債等 | 2.9兆円 | 3.2兆円 | 3.1兆円 |
ETF | 1.5兆円 | 2.5兆円 | 3.5兆円 |
J-REIT | 0.11兆円 | 0.14兆円 | 0.17兆円 |
貸出支援基金 | 3.3兆円 | 13兆円 | 18兆円 |
銀行券 | 87兆円 | 88兆円 | 90兆円 |
当座預金 | 47兆円 | 107兆円 | 175兆円 |
【GDP】
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | |
実質GDP | 1.4%→1.1%→1.0% | 1.5%→2.1% | 1.2%→1.6%→1.5% | 0.2% |
【物価上昇率】
2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | ||
物価上昇率 | 消費増税含める | 0.6% | 3.3% | 2.6% | 2.8% | |
消費増税除く | 0.7% | 1.3% | 1.7→1.0→0.8% | 2.1→2.2→2.0% | 1.9% |
【原油】
項目 | 内容 |
原油 | 2016年にかけて1バレル70ドル程度に緩やかに上昇 |
実績
2013年3月 | 2014年3月 | |
マネタリーベース | 146兆円 | 200.6兆円 |
円相場 | 95.89円 | 103.19円 |
長期金利 | 0.58% | 0.62% |
株価 | 1万2635円 | 1万5224円 |
消費者物価 | ▲0.5% | 1.3% |
賃金 | ▲1.9% | 0.8% |
銀行貸出 | 1.9% | 2.4% |
設備投資 | ▲0.9% | 0.8% |
輸出 | 2.8% | ▲2.3% |