筑波大学発のベンチャー企業で圧倒的な成長が見込まれるロボットスーツ「HAL」を持つ。HALは単なる補助器具ではなく、人間の脳に働きかけ、機能改善を促すという意味で画期的。歩きたいと考えると、信号を受け取り、筋肉を動かす。福祉や医療機器の動作支援、工場での重作業支援、災害現場でのレスキュー活動支援など、幅広い応用が期待される。

2013年6月には欧州で医療機器として認定され、EU域内で販売が可能になった。ドイツでは公的労働保険の適用対象で、週5回、3ヶ月の基本治療費420万円全額がカバーされる。欧州では民間保険、公的保険の適用拡大を目指し、臨床試験が行われている。

日本では2013年3月にHAL医療用で希少性難治性疾患患者を対象に治験を開始。2014年12月に稀少疾患医療機器に指定。2015年3月に神経・筋難病疾患に対する「新医療機器」として薬事承認を申請。2015年11月に承認された。2016年9月からは世界で初めて神経筋難病疾患に対する公的な医療保険診療が開始している。今後は脳卒中や脊髄損傷など他の疾患への適用拡大に向けて臨床試験や治療を加速する。

米国では2014年11月にFDAにHAL医療用の医療機器承認申請を提出するも、本質的な使用目的が異なる受動的な電動装置と同じ区分での審査が進められてきた。2016年11月にFDA側の理解が深化したと判断し、他に類のない新しいロボット治療機器であることを認識可能な形式での承認取得に向けた再申請手続きを開始した。
 

ロボットスーツ「HAL」の主な推移

項目
2016年11月 HAL医療用 米国で承認取得に向けた再申請手続きを開始
2015年11月 HAL医療用 日本で医療機器の製造販売承認を取得
2015年10月 HAL医療用 ドイツで公的医療保険の適用を申請
2015年2月 HAL作業用 欧州全域で販売可能に
2014年12月 HAL医療用 希少疾患医療機器に指定
HAL医療用 東京圏国家戦略特区で混合診療対象
2014年11月 米FDAにHAL医療用の医療機器承認申告書を提出
2014年9月 作業支援用HALをリリース。重作業分野へ本格展開
2013年8月 ドイツで事業を開始
2013年6月 欧州で医療機器として認定
2013年3月 希少性難治性疾患患者を対象に治験を開始


HAL医療用

【日本】
日本では2013年3月にHAL医療用で希少性難治性疾患患者を対象に治験を開始。2014年12月に稀少疾患医療機器に指定。2015年3月に神経・筋難病に対する「新医療機器」として薬事承認申請を実施。2015年11月に承認された。全身の筋肉が次第に動かなくなるALSや筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、球脊髄性萎縮症など8つの難病のいずれかと診断され、体重や身長などの条件を満たした患者が対象となる。

2016年9月から世界で初めて神経筋難病疾患に対する公的な医療保険診療が開始。今後は脳卒中や脊髄損傷など他の疾患への適用拡大に向けて臨床試験や治験を加速する。脳卒中に関しては医師主導の治験が2016年9月より開始されている。大同生命保険は、2017年5月、民間保険会社として初めて医療用HALによる難治治療に対して、受領者の医療費用負担軽減のための保険商品を発売すると発表した。

なお、HAL医療用による治験は東京圏国家戦略特区で混合診療の対象として内閣総理大臣により認定されている。


【ドイツ】
2015年10月にHAL医療用による対麻痺患者の治療で、公的医療保険適用をドイツ連邦合同委員会(G-BA)に申請。身体機能改善治療で、診療報酬に関する申請をドイツ病院医療報酬制度協会(InEK)に申請した。承認されれば、急性期から回復期及びその期間を終えた全ての対麻痺患者に対するHAL医療用の治療で、公的医療保険が適用できるようになる。

ドイツでは、一部の労災保険病院でHAL医療用による機能改善治療に公的労災保険が適用。2014年11月にドイツの9つ全ての労災保険において治療費(治療1回あたり500ユーロ)の全額が保険収載されることになり、公的労災保険病院連合との間で契約に向けた手続きを開始する。9つの労災保険病院はドイツ各地域の代表的な病院。


【米国】
2014年11月、米国食品医薬品局(FDA)にHAL医療用の医療機器承認の最終申告書を提出。2015年6月に承認申請を提出した。しかしながら、医療用HALは、脳・神経信号を活用した能動的な随意運動によって機能改善・機能再生を促す治療を目的としているが、FDAは下肢に装着する機器という外観的な理由などから、患者の移動支援など、本質的な使用目的が異なる受動的な電動装置と同じ区分での審査が進められてきた。

2016年11月、FDA側の理解が深化したと判断し、他に類のない新しいロボット治療機器であることを識別可能な形式での承認取得に向けた再申請手続きを開始した。


熟練技術者の筋肉の動きを読み取り再現

2014年12月、オムロンとHAL介護用・作業支援用・搬送用などの販売促進と保守サービスを提供する契約を締結した。また、オムロンと共同で装着して熟練技術者の筋肉の動きを読み取り、再現できるようにするロボットスーツを約5年で開発する。


AIとIoTで資本業務提携

サイバーダインは、2015年7月にPEZY ComputingとExaScalerと資本業務提携。PEZY Computingとは、小脳処理機能と学習型汎用AIを共同開発。HAL利用者の小脳機能や医師の指示に従う知能を備えた学習型HALや職場・生活環境で機能する学習型汎用AIを備えたHALの実現を目指す。

ExaScalerとは、データセンターを共同運用。IoTにより集積されるビッグデータを解析し、各種サービスとして提供する。

企業 開発
PEZY Computing 小脳処理機能と学習型汎用AIを共同開発
ExaScaler IoTにより集積されるビッグデータを解析


iPS細胞とHALで脊髄損傷治療

サイバーダインと慶応義塾大学は、2016年4月、脊髄再生医療とロボットスーツHAL医療用の複合治療で共同研究を開始すると発表。iPS細胞を利用した再生医療とHAL医療用を組み合わせ、脊髄損傷に対する新たな治療法を開発する。臨床試験で効果を確認後、HALだけでは十分な効果が得られなかった患者に、iPS細胞から作った神経細胞を移植。HALで訓練して治療するもよう。


資金

2014年11月26日、新株発行と2017年満期のユーロ建て新株予約権付き社債(CB)で410億円を調達すると発表。2014年11月27日、発行価額が3159億円に決まり新株発行で211億円、CBで200億円と計414億円を調達した。

調達資金は100億円を国内外の拠点の整備に、50億円をロボットスーツHALの生産拡充資金に、200億円をサイバニクス国際先進医療開発拠点の整備に充当する。

項目 内容
調達額合計 414億円
新株発行 調達額 214億円
発行価額 3159円
CB発行 調達額 200億円
転換価額 3790円


【調達資金使途】

充当額 充当先 期限
100億円 国内外拠点の整備 2017年まで
50億円 医療・介護福祉ロボットや医療機器の生産拡充
200億円 サイバニクス国際先進医療開発拠点の整備 2019年まで
残額 人材獲得


サイバーダイン

【業績推移】

  売上高 経常利益 純利益 純資産 総資産 自己資本比率
2016年 16億円 ▲7.8億円 ▲7.8億円 462億円 468億円 98.6%
2015年 12億円 ▲7.1億円 ▲7.1億円 270億円 475億円 55.8%
2014年 6.3億円 ▲9億円 ▲9.1億円 277億円 482億円 56.4%
2013年 4.5億円 ▲6.8億円 ▲6.8億円 59億円 64億円 93.2%
2012年 2.8億円 ▲5.6億円 ▲5.7億円 25億円 29億円 86.2%

 
【HAL稼動数】

HAL稼動数 2014年度 2015年度 2016年度
医療用 111台 140台 188台
福祉用 384台 489台 422台
介護支援用 45台 282台 714台
作業支援用 44台 216台 274台

 
【ロボットスーツ「HAL」の導入状況】

  2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
導入状況 84台 195台 297台 329台 355台

 
【医療機器の世界シェア】

  EU 米国 日本
医療機器市場シェア 31% 39% 9%


 【日本の介護ロボット市場規模】

  2015年 2020年
介護ロボット市場規模 23億円 349億円

 
【経営戦略】
ロボットスーツ「HAL」は、EUで医療機器としてのCEマーク認証を取得。医療機器市場世界シェア31%のEU全域での販売が可能になった。2013年8月より世界シェア8%のドイツで事業を開始。スウェーデンでも臨床試験を重点的に実施する。世界シェア39%の米国では、医学分野で全米トップクラスの大学病院で臨床試験を推進する予定で、早期のFDA(米食品医薬局)の許可を目指している。世界シェア9%の日本では、2013年3月より希少性難病性疾患患者に対する医師主導治験が開始しており、早期の薬事承認を目指している。


大和ハウス工業のロボット事業計画

サイバーダインの株式を23.9%保有する大和ハウスは、介護・福祉向けロボット事業の売上高を2014年6億円、2020年50億円にする方針。大和ハウスでは自立動作支援ロボット「ロボットスーツHAL福祉用」やセラピー用アザラシ型ロボット「パロ」、全自動排泄処理ロボット「マインレット爽」などを手がけている。

  2014年 2020年
介護・福祉向けロボット事業 6億円 50億円

 

サイバーダインの銘柄診断

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