東京電力福島第1原子力発電所は30年~40年後に廃炉される見通し。2013年には汚染水濃度を下げる装置「アルプス」の稼動や4号機から使用済み核燃料の取り出しを開始。2014年に汚染水浄化を終了し、2020年には炉内で溶け出した燃料の取り出しを開始する。原発問題での費用は除染に2~3兆円、中間貯蔵施設建設に1~2兆円、廃炉に2兆円、損害賠償に5~6兆円と10兆円~13兆円かかると試算されている。 東京電力の主な業績推移数値や財務状況、廃炉に向けたスケジュールなどを以下にまとめた。 {主要業績指数推移} 【2013年】

2013年 売上高 経常利益 純利益 純資産 総資産 自己資本比率
4-9月 3兆2161億円 1416億円 6161億円 1兆7820億円 14兆5652億円 12.1%
4-6月 1兆4377億円 ▲294億円 4379億円 1兆5941億円 14兆7570億円 10.6%

【2007年~2012年】

  売上高 経常利益 純利益 純資産 総資産 自己資本比率
2012年 5兆9762億円 ▲3269億円 ▲6852億円 1兆1378億円 14兆9891億円 7.5%
2011年 5兆3494億円 ▲4004億円 ▲7816億円 8124億円 15兆5364億円 5.1%
2010年 5兆3685億円 3176億円 ▲1兆2473億円 1兆6024億円 14兆7903億円 10.5%
2009年 5兆162億円 2043億円 1337億円 2兆5164億円 13兆2039億円 18.7%
2008年 5兆8875億円 ▲346億円 ▲845億円 2兆4194億円 13兆5593億円 17.5%
2007年 5兆4793億円 331億円 ▲1501億円 2兆6954億円 13兆6790億円 19.4%
  社債・CP 借入金 純資産 現金 流動資産 固定資産
2012年 3兆7681億円 3兆361億円 1兆1378億円 1兆8549億円 2兆7410億円 12兆2481億円
2011年 3兆6774億円 3兆7178億円 8124億円 1兆2874億円 2兆2862億円 13兆2502億円
2010年 4兆4255億円 3兆8300億円 1兆6024億円 2兆2482億円 2兆9147億円 11兆8756億円
2009年 4兆7396億円 1兆9780億円 2兆5164億円 1801億円 9825億円 12兆2214億円
2008年 4兆9370億円 2兆767億円 2兆4194億円 3013億円 1兆2080億円 12兆3512億円
2007年 4兆6974億円 1兆8410億円 2兆6954億円 1548億円 9815億円 12兆6975億円

【収支計画】 東京電力は、2013年11月14日、政策投資銀行や3メガバンクなどに収支シナリオを示した。2013年度経常利益は約250億円の黒字になる見通し。また、2014年度以降は原発再稼働時期などに応じた8通りのシナリオを示した。

シナリオ 時期 2014年度経常損益
柏崎刈羽原発を再稼働する場合 2014年4月 1990億円
2014年7月 1070億円
2014年10月 360億円
2015年1月 ▲130億円
再稼働せず ▲810億円
再稼働せず電気料金を10%上げた場合 2014年7月 790億円
2014年10月 290億円
2015年1月 ▲190億円

【総合特別事業計画】 2014年1月15日、政府は東京電力の新しい再建計画を認定。2014年度は50歳以上で1000人規模の希望退職を実施。他の電力、ガス会社と共同出資で燃料・火力会社を設立し、共同調達で購入単価を引き下げる。2015年度は管内10支店を廃止。工事発注などで競争入札比率を60%以上に高める。2016年度は持株会社体制に移行し、傘下に「燃料・火力」「送配電」「小売り」の3事業子会社を設置。黒字の定着で停止している社債発行を再開。東電の改革進行具合により国の議決県比率を50%未満に下げる。

計画
2014年度 50歳以上で1000人規模の希望退職実施
7月に柏崎刈羽原発再稼働
2015年度 管内の10支店を廃止
工事発注などで競争入札比率を60%以上に
2016年度 持株会社体制へ移行。「燃料・火力」「送配電」「小売り」の3事業
社債発行を再開
国の議決権を50%未満に

{東京電力の原発対策} 政府は東京電力の支払い能力を高めるために、原子力損害賠償支援機構を通じた無利子融資枠を5兆円から9兆円に増やす。福島第1原発周辺の除染や賠償費用拡大に対応し、東電の財務を支援する。 5~6兆円の損害賠償費用は東電が全額支払う。1~2兆円の中間貯蔵施設の費用は国が全額支払う。2~3兆円の除染費用は国と東電が分担し、追加の除染費用は国が負担する。東電の負担は最大8兆円となる見通し。 除染費用の財源は、原子力損害賠償支援機構が保有する東電の優先株1兆円を売却し、その売却益を充てる。市場動向を見ながら2020年以降に段階的に売却し、2030年代後半に政府出資をゼロにする計画。除染費用を上回る売却益が出れば中間貯蔵施設の費用に充てるもよう。中間貯蔵施設費用には電気料金にかかっている電源開発促進税を財源に充てる。

原発対策 費用 東京電力
除染 2~3兆円 計画済み分を負担 追加除染費用分を負担
中間貯蔵施設 1~2兆円 - 1~2兆円負担
廃炉 2兆円 9600億円を引当 -
新たに1兆円積み増し
汚染水 4700億円 凍土遮水壁 1400億円→1700億円に拡大
鉄鋼製の板を設置
損害賠償 5~6兆円 支払い 無利子で貸付

【除染】 東京電力福島第一原子力発電所周辺の除去費用の一部を組みも負担する方向で調整。既に計画済みの除去費用1.5兆円は東京電力が負担し、計画に入っていない新たな除染費用発生分を国が負担する計画。 【中間貯蔵施設】 福島第1原発の除染で生じた汚染土壌など最大2800万立方メートルを30年間保管する施設。2015年1月に使用開始を目指す。 2013年12月11日、政府は中間貯蔵施設の用地を国有化する方針を固めた。2014年度予算案に1000億円を計上し、用地の買取や建設を進める考え。総事業費は1兆円規模となる見込み。

総事業費 2014年度 2015年1月
1兆円 1000億円 -
用地買取・建設 使用開始

【廃炉】 福島第1原発1~4号機の廃炉費用として9600億円を引当。東電は新たに1兆円を確保する方針。投資抑制やコスト削減などで年1000億円ずつ積み立てる計画。 【汚染水対策】 2024年までに7400億円を投資する方針。作業員の労働環境改善や放射線量の高い場所で用いるロボットへの投資を増やす。政府は東電に担当部門の分社化を促す一方、国費の投入額を1400億円から1700億円に増やす。東電では速やかな開発が困難な事業に限り国費を投入するとしており、ロボットの研究開発や原発周辺の港湾内の海水から放射性物質を取り除く技術などを手がける。 2013年12月、経産省は汚染水が外洋に流出するのを防ぐため、防波堤の建設や港湾内から放射性物質を取り除く事業、放射性物質を取り除いた水を外洋に放出する手法などの追加対策をまとめた。2013年度中に追加対策の事業者を公募する方針。 2013年9月、原子炉建屋を凍った土で囲う「凍土遮水壁」の建設に210億円の投入を決定。1~4号機に冷却材を循環させて水が入るのを防ぐ凍土を作る。凍土壁設置には1年以上かかるため、緊急対策として原子炉建屋に地下水が流れ込むのを防ぐ鉄鋼製の板の設置を検討。2013年度の補正予算や2014年度の予算に盛り込む方針。 また、9月には汚染水濃度を下げる新型浄化装置「アルプス」の試運転が開始。東芝が納入した装置で、汚染水に含まれる63種類の放射性物質のうち除去が難しいトリチウムを除く62種類を基準値以下の濃度まで除去する。アルプスの処理能力は1日あたり500トン。福島第1原発内のタンクに溜まっている汚染水は35万トンで、1日400トンずつ増えているといわれている。東電はさらに装置を増強。経産省も150億円を投じ新型アルプスを開発。1日2000トンの処理能力を目指し、2014年度末までに汚染水の処理を終える計画。

汚染水 汚染水処理(1ヶ月あたり計画) 処理完了
タンク内 1ヶ月あたり増加 アルプス 東電増設
経産省開発
35万トン 約1万2000トン 約1万5000トン 約6万トンに引き上げ 2014年度末

【損害賠償】 2013年2月時点の賠償見積額は約3兆円とされていたが、農林漁業・食品産業の風評被害に係る損害に関する指針が策定されるなど賠償見積額を見直す必要が生じ、現在3兆9000億円と見積もり。最終的には5~6兆円に達する可能性がある。東電はこれまで3兆円の損害賠償を支払っている。賠償資金は国が無利子で貸付を行い、東京電力が将来あげた利益から返済する。 {福島第1原発 廃炉へのスケジュール}

時期 スケジュール
2013年 9月 汚染水濃度を下げる装置「アルプス」稼動
11月 4号機から使用済み核燃料の取り出し開始
2014年末 原子炉建屋を囲う凍土壁の完成
汚染水浄化を終了
2020年前半 炉内で溶け出した燃料の取り出しを開始
2030年~2040年 廃炉作業終了