イプシロンとは宇宙航空研究開発機構(JAXA)とIHIエアロスペースが開発した小型人工衛星打ち上げ用個体燃料ロケット。2013年9月14日に打ち上げが成功し、惑星観測衛星を予定通り軌道に乗せた。
イプシロンはこれまで100人規模で行っていた点検作業を2台のパソコンで処理し、打ち上げ準備を大幅に短縮。打ち上げコストは今回打ち上げた初号機は53億円だが、2号機以降は38億円、量産に入る2017年以降は30億円以下を目指しており、コスト低下による国際競争力が期待されている。初号機は既に搭載実績がある素材や部品を多く使っており、これらを機能性が高い先端素材に置き換えればコスト削減が可能という。
なお、イプシロンは宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発し、IHIエアロスペースが生産。先端部で衛星を覆う「フェアリング」は川崎重工が、計測通信系機器はNECが、ガスジェット装置は三菱重工が納入している。
イプシロンには惑星分光観測衛星(SPRINT-A)が搭載されている。SPRINT-Aは地球を回る人工衛星軌道から金星や火星、木星などを遠隔観測する世界で最初の惑星観測用の宇宙望遠鏡。地球と金星、火星は太陽系初期に非常に近い環境を持っていたことから地球系惑星と呼ばれており、SPRINT-Aはこれらの地球型惑星の大気が宇宙空間に逃げ出すメカニズムを調べる。また、極端紫外線の観測能力を生かして、木星の衛星イオから流出する硫黄イオンを中心としたプラズマ領域の観測を行い、木星のプラズマ環境のエネルギーがどのように供給されているのかを調べる。
イプシロンが今回運んだ衛星はNEC製。惑星を観測するための宇宙望遠鏡は住友重機械工業が生産している。またIHIは2012年に超小型衛星や衛星搭載カメラなどを生産する明星電気を買収している。
{イプシロン関連銘柄}
コード |
企業 |
内容 |
7013 |
IHI |
IHIエアロスペースが「イプシロン」を生産 |
2012年に超小型衛星・衛星搭載カメラを生産する明星電気を買収 |
2015年度をめどに人工衛星事業に参入 |
7012 |
川崎重工業 |
先端部で衛星を覆う「フェアリング」 |
6701 |
NEC |
計測通信系機器 |
惑星分光観測衛星SPRINT-A |
7011 |
三菱重工業 |
ガスジェット装置 |
6302 |
住友重機械工業 |
惑星を観測するための宇宙望遠鏡 |
【IHI】
2015年度をめどに人工衛星事業に参入。資源探査や台風観測など防災関連に使う高性能な超小型衛星を開発し、イプシロンで打ち上げる。衛星の価格は大型衛星では100億円以上するのに対し、超小型衛星では5億円程度で済む。また、イプシロンには1.2トンの打ち上げ能力があるため、衛星を複数受注し、1基のイプシロンでまとめて打ち上げることで顧客1社あたりの打ち上げ費用を引き下げ。顧客が負担する総費用は10億円以下になる見通し。顧客企業は衛星観測で得られる大量のビッグデータを安価に活用できるようになる。
{イプシロンでの外国衛星打ち上げ計画}
政府は2017年からイプシロンで外国の衛生を打ち上げる計画。第1弾としてベトナムの衛星を打ち上げる方向で交渉を開始。2014年春にも基本合意したい考え。
日本はベトナムと2011年に政府開発援助(ODA)を活用し、宇宙開発を支援することとなった。2017年を目標に災害監視衛星を打ち上げる計画で、衛星の開発・製造を日本企業に発注することが内定していた。しかし、打ち上げは日本の主力ロケット「H2A」ではコストに合わず、外国産も含めてベトナムの意向を重視することとなっていた。
イプシロンの打ち上げ成功で、衛星の製造から打ち上げまで一括受注すると、費用が70億円から80億円となり、世界的に見ても十分なコスト競争力を持つようになった。また、衛星の開発着手から運用開始までの期間も従来の3分の1から半分の約2年になることから、ベトナムの打ち上げ受注も目指す。
衛星はNECが受注する見通し。豪雨や洪水、地震など災害を監視する小型衛星は新興国の需要増が期待されている。NECは基幹部品の共通化を進め、低価格で製造する。
政府はイプシロンを主力ロケットと位置付け、ベトナムのほかタイやマレーシアなど東南アジア諸国を中心に官民が協力して売り込む。