2012年の金価格は欧州の債務危機や米国の景気低迷によるドル安などから逃避資産として金への資金流入により1トロイオンス1700ドル前後で推移していたが、2013年4月以降一時1200ドル台まで下落した。米国景気回復によるドル高見通しや量的緩和縮小予測に伴い、投機筋のファンドなどが金市場から資金を引き上げている。

一方、中央銀行は金の買越に転じている。2012年の金生産量である2861トンのうち中央銀行は約18%を買っており、長期保有資金が流入している。また、金の下値ベンチマークとして生産コストに注目する見方などもある。

金の見通しを分析するため、金に関連する情報を以下にまとめた。


【米国 量的緩和縮小予測】

ドルの代替として買われてきた金が、米国景気回復によるドル高見通しや量的緩和縮小予測に伴い、投機筋のファンドなどが金市場から資金を引き上げている。米FRBは2013年に資産新規購入の縮小停止・2014年にFRBの資産規模の縮小、2015年にゼロ金利政策を解除し、利上げすると予測している。バーナンキFRB議長は、月額850億ドル(約8兆6000億円)を買い付けている資産購入プログラムを2013年内にも段階的に減額。その後も、景気が予想通り回復するなら2014年半ばには資産購入を終了させたいとのシナリオを示している。


【中央銀行の動き】

 中央銀行は金の買越に転じている。2000年から2007年に中央銀行は年平均約500トンペースで売却してきた。一方、2011年には457トン、2012年には532トンの買越に転じている。2012年の金の年間生産量は2861トンであることから中央銀行は年間生産量の約18%を買っており、長期保有資金が流入している。

調査会社ワールド・ゴールド・カウンシルによると、2013年1~3月、中央銀行は109.2トンを購入している。 経済成長で外貨準備が増えているロシアやカザフスタン、トルコ、アゼルバイジャンなどが購入している。

日本経済新聞が報道したところによると、ロシアとアゼルバイジャンは長期的に買い増す見通し。ロシアは2007年から積極的に購入し、外貨準備高の10%まで金を買い増す方針。現在は8.8%まで高まっている。また、アゼルバイジャンは国営石油ファンドのポートフォリオの5%まで保有可能で、現在2.8%であることから買い増す余地が残っている。

また、中国とインドは2カ国で2012年の金生産量の57%を買い占めている。中国で景気減速の兆しが見え始めたこと等から需要は減退しているが、2カ国の経済状況が注目される。韓国の中央銀行も外貨準備の一部として金の保有を増やしている。


【金の下値ベンチマーク】

 金価格レンジの下限は生産コストが1つのベンチマークとして注目されている。トムソンロイターによると、2012年金の総コストは1211ドル。ベンチマークとなる理由は、金価格が生産コスト以下に下がれば金鉱山が減産又は閉山に動くことにより、新規生産量が減少するため。また、安値圏では買い取りショップなどを通じた金市場への還流も減少することから流通量が減少する一方で、宝飾品などの実需は安値により需要が増加することから需給が引き締まっていくことが予想されることによる。


【シェールガス開発によるドル高要因】

 シェールガスの開発は、潜在的なドル売り要因となっている原油貿易の赤字が縮小することが見込まれることから、ドルが長期的な上昇トレンドに入るとの見方がある。 2011年の米国経常収支は4659億ドルの赤字。貿易収支はガス・原油の赤字額が3370億ドルとなっており約72%を占める。シェールガスの開発で、米経常赤字の対GDP比は2020年に2.4ポイント下がるとの見通しもあり、2012年の水準から計算すると経常赤字が約60%減ることが見込まれている。米国の自給率が上がり、ガス・石油の赤字が解消することで経常収支が改善し、ドルの売り圧力が弱まることが予想されている。


【インドの禁輸入 業者以外の借入資金購入を禁止へ】

 インド準備銀行(中央銀行)は、2013年6月27日、輸入される金を借入資金で購入することを宝飾品の輸入業者を除いて事実上禁止すると発表した。 インドの5月の金輸入は162トンと2011年度平均の2倍に達している。そのため、関税を1月に6%、6月には8%に引き上げた。しかしながら、金の国際価格下落により、インド国内でも価格が下落。関税率引き上げ分が実質的に帳消しとなったため、需要が急拡大していた。 インド中銀は国民に金の買い入れは現金決済を強制。宝飾業者だけに金購入を制限するなど対策を講じてきたが、需要拡大に伴う経常赤字防止のため、さらに規制を強化する。