経済産業省は、再生医療製品の世界市場規模が2012年1000億円から2050年には38.4兆円に拡大すると試算している。内訳は新興国が18兆円、日本が2.5兆円、欧州が8.4兆円、米国が9.4兆円となる見通し。
また、国内の再生医療の市場規模は2012年の90億円程度から、2020年には1900億円、2030年1兆円、2050年には2.5兆円まで拡大すると試算している。
さらに、再生医療周辺産業(試薬などの消耗品やサービス)の世界市場規模も2012年170億円から2030年には5.2兆円、日本も5500億円まで拡大すると予想されている。
政府は「成長戦略」の一つである医療分野において、再生医療の発展に向けた法律制定や医療機器の審査・上市を早める薬事法改正などを進めており、極めて高い成長が見込まれる。
{再生医療に関する国の政策 概要}
政府は先端的な医療分野で新薬開発などの司令塔となる新組織「日本版NIH」を組織する。再生医療の早期実用化を達成するため、薬事法の改正や新たなルールづくり、混合診療も再生医療製品に含めるよう提言をまとめる。また、研究を加速させるため、広範なiPS細胞研究を対象に10年間で1100億円の支援を行う。
{機関}
【[日本版NIH[2247]]】
日本版NIHとは政府の医療関係研究開発予算を一元的に取り扱い、研究開発成果を早期に新薬開発や医療機器の実用化につなげるための組織。2014年度の成立を目指している。
医療分野では、基礎研究を文部科学省が、臨床応用を厚生労働省が、産業育成を経済産業省が担なっている。それぞれが個別に関連予算を持っており、資金・研究の進捗で無駄が生じていた。
NIHには関連予算約3500億円を一括で配分する権限を与える。また、民間企業から集めた資金も一緒に管理し、再生医療や遺伝子治療などのプロジェクトごとに予算を配分。研究から実用化まで官民一体の体制を作る。関連予算3500億円は、日本の科学技術振興費(1.3兆円)の4分の1にあたる規模。
また、民間企業が公的な研究に資金を投じる仕組みも作る。先端医療プロジェクトに対し、企業は研究委託費用として資金を投資。プロジェクトの成果で得られた利益や知財権を研究機関や大学、企業で分け合うルールを作り、回収できるようにする。
{制度・法改正}
【薬事法改正】
日本の再生医療はiPS細胞などの研究では世界の最先端を走るが、再生医療製品の実用化では欧米や韓国に引き離されている。2012年度末時点で日本が製品化したのは皮膚と軟骨の2品目のみ。これに対し、欧州は20品目、韓国は14品目、米国は9品目を製品化している。
製品化を早めるため、薬事法を改正し、「再生医療製品」の分類を設ける。安全性を確認後、制限付きで早期に販売を認める。市販後の調査で薬の有効性を検証する仕組みとする。
【再生医療等安全性確保法案】
再生医療新法では、人体へのリスクに応じて再生医療を3つに分類。iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)は最も高リスクな「第1種」に分類し、提供には第三者委員会の審査や厚労相のチェックを求める。
また、厚生労働省は、再生医療を推進するため、医療機関が患者から採取した細胞の加工や培養を外部企業に委託できるようにする。
再生医療では、医療機関は患者から採取した細胞をもとにiPS細胞などを作り移植を行う。現在、細胞の加工・培養は医療機関同士であれば委託が可能となっている。しかしながら、医療機関は専用設備の整備や管理などで費用がかさんでいる。
そこで、民間企業に委託できるように法整備を行い、医療機関の負担を減らす。厚労省は、細胞の加工・培養を請け負う企業に対し,ウイルス混入の防止や国定管理など安全管理体制の整備を義務づけたり、専門技術者の育成も求める。
【[再生医療製品の製品化に新ルール[2417]]】
再生医療製品の製品化の期間短縮・費用削減に向け新ルールの策定される見通し。現在、現在、医療機関は細胞移植など再生医療の安全基準を定める医師法に、メーカーは製薬の安全基準を定める薬事法に規制されている。iPS細胞は医療と製薬の双方で実用化される可能性があるため、細胞培養などの安全基準が異なると開発が2度手間になり製品化に時間がかかるおそれがある。
経済産業省と厚生労働省は、2013年5月29日に共同の作業部会を設立し、新ルール作りに着手。臨床研究と治験の基準を一本化し、細胞を培養する際の無菌レベルなど条件を示す見通し。2013年7月10日に初会合を開催。秋までに原案を作り、2014年中の施行を目指す。
【[混合診療活用[2135]]】
現行制度では、保険が適用される診療と適用外の診療を併用する「混合診療」について、保険の適用が一部のみ認められているが、目の角膜など再生医療製品についても混合診療に含めるべく、提言案を盛り込む。
{資金}
【[iPS細胞の支援 2013年~2023年の10年間で1100億円[1520]]】
様々な細胞に変化できるiPS細胞を利用した創薬や再生医療などの研究を加速させるため、政府は国内の広範なiPS細胞研究を対象に、毎年約90億円ずつ予算を盛り込み、10年間継続的に支援を行う。
年度をまたいだ予算の繰越など国より柔軟な経費執行が容易な科学技術振興機構の運営費交付金を通して分配される。