iPS細胞は、京都大学山中伸弥教授が世界で初めて開発した。2012年10月8日に山中教授はノーベル生理学・医学賞を受賞。様々な細胞への分化が可能で、再生医療・創薬への応用が期待されている。2013年6月26日に理化学研究所などが申請していたiPS細胞をヒトに移植する臨床研究計画が承認。2014年9月12日に目の難病である加齢黄斑変性を治療する臨床研究で患者への移植が実施された。
経済産業省は、再生医療製品の世界市場規模が2012年の1000億円から2050年には38.4兆円に、日本国内は2012年の90億円から2050年には2.5兆円に拡大すると試算しており、大きな成長が期待できる。
政府はiPS細胞を使う再生医療に関する手続きを円滑に進める方針で、早ければ2020年代はじめにも実際の治療が始まる可能性がある。また、治療費は細胞シートの量産などで100万円以下程度に下げられる可能性があるという。
iPS細胞関連企業
iPS細胞関連企業が動き出している。細胞を作製し販売するリプロセルが2013年6月26日に新規上場。世界初の臨床試験を実施した「加齢黄斑変性」の治療に使用する「網膜細胞シート」を手がけるヘリオスに大日本住友製薬や新日本科学が出資。大日本住友製薬は細胞シートの量産技術確立を計画。2018年にも医薬品としての承認を国に申請する方針。また、アステラス製薬は2013年にiPS細胞を使った治療法の研究チームを設立。ニプロは京都大学と共同でiPS細胞の大量培養装置を開発している。
コード | 企業 | iPS関連事業 |
4978 | リプロセル | ヒトiPS細胞から心筋・神経・肝臓などの細胞を作製・販売 |
- | ヘリオス | iPS細胞をヒトに移植する臨床試験で使用する「網膜細胞シート」を作製 |
- | メガカリオン | iPS細胞で止血剤生産。15年臨床試験、18年販売を計画 |
4506 | 大日本住友製薬 | ヘリオスに5%出資。iPS細胞での網膜治療連携への独占的協議権を取得 |
「加齢黄斑変性」の治療に使う細胞の量産技術確立へ | ||
2395 | 新日本科学 | ヘリオスに3億円出資。iPS細胞をヒトに移植する臨床試験で使用する「網膜細胞シート」を作製を支援 |
2191 | テラ | ヘリオスに1億円出資。樹状細胞ワクチン法を共同開発 |
4503 | アステラス製薬 | 2013年度内にiPS細胞を使った治療法研究チーム設立 |
4502 | 武田薬品 | アルツハイマー病患者の細胞からiPS細胞を作り、神経細胞に誘導する方法を確立 |
第一三共などと各社が実施するiPS細胞を用いた薬の安全性評価を共有 | ||
4568 | 第一三共 | 武田薬品などと各社が実施するiPS細胞を用いた薬の安全性評価を共有 |
- | アビオスファーマ | 第一三共の100%子会社。iPS細胞から心筋細胞を効率よく作製する技術を開発 |
4922 | コーセー | 2019年をめどにiPS細胞で化粧品開発 |
6758 | ソニー | iPS細胞から作った心筋細胞などの動きを分析技術を開発 |
2802 | 味の素 | 京都大学とiPS細胞を動物成分を使わずに増やす培養法を開発 |
8086 | ニプロ | iPS細胞の大量培養装置開発。15年実用化を計画 |
7731 | ニコン | iPS細胞に育ちそうな細胞の候補を素早く選べる顕微鏡を開発 |
4091 | 大陽日酸 | iPS細胞を全自動で凍結する装置を販売 |
7701 | 島津製作所 | iPS細胞から作った治療用細胞を効率よく培養する装置 |
iPS細胞研究所とiPS細胞のバイオマーカー探索の為の共同研究 | ||
4203 | 住友ベークライト | 京都大学と共同でiPS細胞の品質を簡単に評価できるキットを開発 |
6501 | 日立製作所 | 細胞シートの自動培養装置 |
4591 | リボミック | アプタマーでiPS細胞や分化細胞の純化技術 |
2372 | アイロムHD | センダイウイルススベクターで治療薬研究用の細胞を作製 |
iPS細胞の研究成果
iPS細胞は様々な細胞に変化し、さらに高い増殖性も兼ね揃えているため、心筋や神経など様々な体細胞を安定的に供給することが可能となる。臨床研究が計画されている視細胞や脊髄、角膜を始め、腎臓の再生医療につながると期待される尿細管や脱毛症の治療につながると期待される毛網の再生、白血病の治療につながると期待される造血幹細胞を作製することにも成功。ヒトiPS細胞でがん免疫療法も開発された。
【組織】
細胞 | 機関 | 内容 |
肺細胞 | 京都大学 | 肺の中で空気のやりとりをしている細胞作製 |
がん幹細胞 | 神戸大学 | 大腸がんの細胞からがん幹細胞 |
肝臓 | 横浜市立大学 | 直径1ミリメートルに満たない肝臓の塊を量産 |
肝臓組織 | 熊本大学 | iPS細胞から肝臓組織 |
肝幹前駆細胞 | 大阪大学 | 肝臓の元になる「肝幹前駆細胞」を大量培養 |
尿細管 | 京都大学 | 肝臓の一部で水分の再吸収などを行う細胞尿細管を作製 |
小腸細胞 | 熊本大学 | ヒトiPS細胞で小腸細胞を作製 |
膝関節 | 東京大学 | ブタにiPS細胞を移植し、膝関節を再生 |
毛包 | 慶應大学 | 毛を作り出す毛包の一部を再生 |
ホルモン | 香川大学 | 赤血球の増加を促す「エリスロポエチン」を生み出す細胞を作製 |
京都大学 | ||
筋細胞 | 東京大学 | 筋ジストロフィー患者の皮膚細胞でiPS細胞を作製し、筋肉細胞に変化 |
膵島 | 東京大学 | 血糖値を調整する膵島を作製 |
造血幹細胞 | 東京大学 | 血液の元になる造血幹細胞を作製 |
赤血球 | 理化学研究所 | 赤血球のもとになる「赤血球前駆細胞」を作製 |
【療法】
療法 | 機関 |
心筋組織シート | 京都大学 |
ALSの生存期間延長 | 京都大学 |
がん免疫療法 | 熊本大学 |
心筋シート | 大阪大学 |
iPS細胞の主な臨床研究スケジュール
理化学研究所と先端医療振興財団は、「滲出型加齢黄斑変性に対するiPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究」について、世界初の臨床試験実施の申請。2013年6月26日に承認された。2014年夏をめどにiPS細胞を使った初の治療が始まる。また、結果を踏まえて中国やタイを候補として輸出も検討される見通し。
作製する細胞 | 機関 | 対象疾患など | 臨床研究の開始時期 |
網膜色素上皮細胞 | 理化学研究所など | 加齢黄斑変性 | 2014年夏 |
視細胞 | - | 網膜色素変性 | 2016~2017年 |
血小板 | メガカリオン | 血小板減少症 | 2016~2017年 |
心筋 | 大阪大学 | 心筋梗塞 | 2016~2018年 |
神経幹細胞 | 慶應大学 | 脊髄損傷 | 2018年まで |
角膜 | 大阪大学 | 角膜損傷 | 2018~2020年 |
ドーパミン産生神経細胞 | 京都大学 | パーキンソン病 | 2018~2020年 |
骨・軟骨 | 京都大学 | 軟骨損傷 | 2019年~2020年 |
肝細胞 | - | 肝硬変 | 2020年以降 |
造血幹細胞 | - | 白血病 | 2020~2023年 |
腎臓細胞 | - | 腎臓病 | 2023年以降 |
- | 米アドバンスト・セル・テクノロジー | 血小板など血液の病気 | 2013年めど |
- | 米国立衛生研究所(NIH) | 黄斑変性 | 2013年~2015年 |
【パーキンソン病】
スケジュール | 内容 |
2014年6月 | 京大が厚労省に第三者委員会設置を申請 |
2015年1月 | 京大・第三者委員会がパーキンソン病の臨床研究計画審査を開始 |
2015年春 | 第三者委員会の了承を受け、厚労相に計画を提出 |
2015年夏 | 厚労相の承認を受け、臨床研究開始 |
2016年 | パーキンソン病患者に神経細胞を移植 |
再生医療に関する国の政策
政府は「成長戦略」の1つである医療分野で、再生医療の発展に向けた法改正や医療機器の審査・上市を早める薬事法の改正などを進めている。先端的な医療分野で新薬開発などの司令塔となる「日本版NIH」の組織。研究を加速するため、広範なiPS細胞研究を対象に10年間で1100億円の支援を行う。
健康・医療戦略推進法と独立行政法人日本医療研究開発機構法が成立し、日本版NIHが2015年4月に設立されることが決定。地域を限って規制緩和する国家戦略特区で、iPS細胞などを使った最先端医療を実施。iPS細胞を使って目の治療をする病院を作る計画。
政策 | 内容 |
日本版NIH | 医療関係研究予算3500億円を一元管理、先端医療分野のプロジェクトに配分 |
薬事法改正 | 「再生医療品」区分を新設。安全性確認後、早期に製造・販売を認める |
新ルール | 臨床研究と治験の基準を一本化 |
細胞加工の委託 | 医療機関の細胞加工や培養を外部民間企業への委託可能に |
混合診療 | 再生医療製品を混合診療に含める提言案 |
資金支援 | iPS細胞研究に2013年から2023年の10年間で1100億円の支援 |
【日本版NIH】
2014年5月23日に参院本会議で、健康・医療戦略推進法と独立行政法人日本医療研究開発機構法が成立し、日本版NIHを2015年4月に設立することが決まった。
【混合診療】
政府は、2014年6月23日、地域を限って規制緩和する国家戦略特区での事業計画を話し合う区域会議を開催。大阪大学や京都大学が特区での混合診療の規制緩和を活用し、国内で未承認の薬や医療機器、iPS細胞などを使った最先端医療を実施する。また、基準を超えた病床の増設が認められるため、iPS細胞を使って目の治療をする病院を神戸市内に作る計画。